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【息が詰まるようなこの場所で】結末までネタバレ←登場人物のラストは?感想=ドラマ映画化希望!

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2023年1月30日に刊行され、テレビ紹介もされて話題になったタワマン小説【息が詰まるようなこの場所で】を読んでみました。

この記事では【息が詰まるようなこの場所で】のネタバレと感想を書いています。

はちこ
はちこ

上層と下層で大きな格差があるタワマンに住む人々の内面を毒々しく描いた一冊。

「あ~、こういう人いる」とか「私にも似たようなところがあるある」と頷きながら一気読みしてしまいました。

友人を妬んでしまったり、家族にイラついてしまったりする人におすすめ?の一冊です。

1万文字を超える長文です。サクッと内容を知りたい方は、目次の活用がおすすめです

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【息が詰まるようなこの場所で】登場人物

  • 平田さやか…東京に憧れタワマンに住んだが、低層階のため卑屈になりがち。教育ママでもある。
  • 平田健太…大手いなほ銀行に勤務。
  • 平田充…平田家の一人息子。11歳で中学受験勉強中。
  • 高杉綾子…ローゼスタワーの高層階に住んでいる。PTA会長。
  • 高杉徹…代々続くクリニックを継いだ医師。
  • 高杉隆…高杉家の優秀な長男。
  • 高杉玲奈…天才ピアノ少女。
  • 高杉和子…徹の母親で、看護学校を卒業している。
  • 高杉豊…徹の3歳下の弟で自由奔放を許されている。
  • 伊地知理恵…さやかのママ友。ローゼスタワー建設予定地で定食屋を営んでいた。
  • 伊地知翔…ローゼスタワーの近所でおしゃれな和食店を経営。理恵とは高校の同級生。
  • 伊地知琉晴…充の友達。伊地知家の次男。
  • 伊地知蒼樹…伊地知家の長男。
  • 目黒奈々子…いなほ銀行のキャリアウーマン。さやかの同僚であり、健太の後輩。
  • 矢島亮太…健太の職場に来た新人。
  • 小坂瞳…近所にできたタワマンにアメリカから引っ越してきた。
  • 小坂久弥…スタンフォード大学卒であだなは「スタンフ夫」
  • 小坂沙羅…瞳の娘。

【息が詰まるようなこの場所で】簡単なあらすじ&感想

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【息が詰まるようなこの場所で】は、高級タワーマンションに住む住民たちが抱える悩みや苦悩の物語。

一般的に20階以上とされるタワーマンションでは、上層階と下層階では住んでいる人のお金持ち度が違うと言われています。

「タワマンには三種類の人間が住んでいる。資産家とサラリーマン、そして地権者だ」

【息が詰まるようなこの場所で】17ページ

【息が詰まるようなこの場所で】では、3種類の人間の中から、特に資産家とサラリーマンの家族をメインにし、どれほど息が詰まるような生活を送っているかを生々しく描いています。

はちこ
はちこ

ありきたりですが、「幸せ」って住む場所や資産では決まらないんだなぁと改めて実感。

タワマン=息が詰まるような場所

ではなく、どんな場所にいても誰かと比較しているうちは、決して幸せになれないんだなぁということを教えてくれる一冊です。

メインとなる登場人物みんなが、普通に善良で一生懸命生きていて、一方で腹黒い部分を持っています。

登場人物の中に、自分自身や身近な人の姿を発見する面白さがありました!

【息が詰まるようなこの場所で】結末までネタバレ+感想

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1話『平田さやかの憂鬱』ネタバレ感想

タワーマンションのヒエラルキー

湾岸に建つ「ローゼスタワー」は、築10年が過ぎても資産価値が上がっているタワーマンション。

平田さやかは、地元埼玉に家を買おうとした夫健太や周囲の反対を押し切り、ペアローンを組んでまで、ローゼスタワーに住んでいました。

とは言え、平田家が購入したのは比較的安い低階層の2LDK。一方で、一人息子であるの友達高杉隆の部屋は最上階にありました。

そんな状況の中、元読者モデルのインフルエンサーでもある隆の母綾子が、PTA会長に選ばれます。綾子の豪華な自宅で行われた1度目の役員会で、さやかは半ば強引に会計を押し付けられてしまいました。

広報を押し付けられた伊地知理恵も、ローゼスタワーに住んでおり、さやかにとっては貴重なママ友でした。伊地知家は、マンション建築予定地で昔から定食屋を営んでおり、地上げによってタワマンの一部屋を手に入れていました。

さやかは、理恵の飾らず、周囲に流されない性格が好きでした。タワマン内の小学生の9割ちかくが中学受験させる中で、伊地知では塾にも通わせず、子供たちのやりたいことを優先させていました。

対して、綾子には会うたびに惨めな気持ちになってしまいます。綾子自身が40代とは思えない美しさを保っているだけでなく、息子の隆は秀才、娘の玲奈は天才ピアノ少女と、あらゆる点でヒエラルキーの頂点に立っていました。

はちこ
はちこ

マウントをとる人にはたいてい劣等感があります。

綾子がすべてに満ち足りているなら、他人にマウントをとる必要がないですよね。

さて、綾子は本当にさやかにマウントをとっているのでしょうか?それとも、さやかの嫉妬心がそう見せているのでしょうか?

中学受験

中学受験とは子供の戦いであると同時に、親の戦いでもある。

【息が詰まるようなこの場所で】28ページ

5月、さやかは中学受験を控えた充に、つい勉強の口出しをしてしまいます。充は隆と同じ難関校を目指す塾ブリックスに通っており、中でも上位クラス”エス”にいました。

言ってはいけないとわかっていながら、さやかはエスでトップにいる隆と充を比較して、口うるさくなってしまいました。

仕事をしながら、中学受験と戦うさやかは、夫健太にもイラつきを隠せません。健太は、小学生から必死で勉強させ、大金をつぎ込むことについて積極的ではなかったからです。

さやかと同じ、いなほ銀行に勤める健太は、明治大学を卒業していましたが、トップは東大ばかりという学歴主義の銀行で、健太も学歴コンプレックスを抱えていました。

はちこ
はちこ

【息が詰まるようなこの場所で】の初版は2023年…

大手銀行って、「東大じゃないと」みたいな学歴主義が、いまだにまかり通っているんでしょうか?!

明治大学で学歴コンプレックスって、意味不明です。

頭の良い人は、頭の良い人たちの中で不幸を生み出しているんですね…。

「勉強したら幸せになれる」はやっぱり嘘みたいです。

同僚、目黒奈々子との格差

さやかの同僚、目黒奈々子とは同期入社ですが、総合職と一般職という大きな違いがありました。奈々子は、明るい性格の美人で、銀行内のお偉いさんにも人気のキャリアウーマン。さやかにも親しげに接してきます。

しかし、さやかは、そんな奈々子に対し微妙な意識を持っていました。夫の健太はかつて奈々子に片思いをしていたようなのです。その上、奈々子はローゼスタワーの上層階に住んでいました。

健太とさやかが必死で働いても、いなほ銀行での出世は見込めず、奈々子の住んでいる部屋が平田家の部屋と4千万円も価格差があることに、さやかはどうしても惨めな気持ちになってしまうのでした。

高杉綾子の知られざる一面?

6月の土曜日、さやかが一人で銀座で買い物をしていると、娘の玲奈を連れた高杉綾子から声をかけられます。さやかは眺めていたカーディガンを綾子から「似合いそう」と言われたことで、つい見栄で3万円もの出費をしまいました。

玲奈は綾子に似て美しく、天才ピアノ少女でもありました。本来、娘が欲しかったさやか…充をワンオペで育てた辛い時期を思い出し、またもやモヤモヤした気持ちになってしまいます。

さらに綾子のペースに飲み込まれたさやかは、誘われるがまま銀座の老舗フルーツパーラーで2500円もする苺パフェを食べることになってしまいました。

お茶をしていると綾子が息子たちの進路の話を切り出します。なんでも綾子は勉強のことはわからないから、全部家庭教師に任せているとのこと。マウントをとられると思いきや、綾子は浮かない表情をしています。

その様子から奈々子は「吾々庶民には窺い知れぬプレッシャーでもあるのだろうか」と思い、綾子への苦手意識が薄れ、打ち解けていくのでした。

はちこ
はちこ

やはり綾子はさやかにマウントをとっているわけではなかったようですね。

3話のタイトル『高杉綾子の煩悶』からも、お金持ちにはお金持ち特有の悩みがあることは間違いありません。

さやかも隣の芝生が青く見えているだけなんでしょうね。

親友マミと会って

さやかは、何年かぶりに親友のマミの住む千葉県の流山おおかたの森駅へとやってきます。マミは、さやかが埼玉から東京の女子大に進学にした際の友人で、同じ年に子供を産んだことから、子育ての同志としても絆を深めていました。

私たちはタワマンに住んだまま仕事辞めずに働き続けて、イケてるママになろうね

【息が詰まるようなこの場所で】59ページ

2人はそう誓い合った仲でした。ところが7年前、マミが双子を妊娠し、3人の子どもを東京で育てることを断念、実家の千葉へと帰ってしまいます。それ以来、年賀状だけの間柄となっていました。

さやかはマミに対し、「自分はまだ東京で頑張っている」と少しの優越感と、親友にそんな気持ちを抱く自分への嫌悪感で複雑な気持ちになります。

しかし、豪邸のようなマミの自宅を見て呆然としてしまいました。大きな家具家電、ゴールデンレトリバー、のびのびと育っている3兄弟…それらはすべて平田家が諦めてきたものでした。

ジーンズにスニーカー、ユニクロの上着を着て、トヨタの大きなアルファードを乗りこなすマミが、さやかは格好よく見えてきます。そして、見栄で買ったカーディガンをここぞとばかりに羽織ってきた自分を恥ずかしく感じてしまいました。

東京というすべてが狂った異常な街で、息が詰まるようなこの場所で、私たちは何を追い求めて消耗しているのだろうか

【息が詰まるようなこの場所で】66ページ

「幸せとはなんだろう」と考えても、その答えは見つからないままでした。

1話『平田さやかの憂鬱』感想まとめ

Google検索で「幸せとは」と検索すると、仏教、心理学、医師などなど様々な角度から、定義やその要因が日本語で語られています。偉い人たちが一応答えを出してくれているのです。

ところが、日本は幸福度ランキングがとても低い国であることは有名な話。餓死する人もほとんどおらず、戦争も今のところはなく、外国人が憧れる国で暮らしているのに、ちっとも幸せを感じられないのは、私たちの中にも多かれ少なかれ「平田さやか」がいるからなのかもしれません。

私個人は「幸せとはなんだろう」とか「どうやったら今より幸せになれるか」とか考えることをやめたら「家族と自分が元気で、一日が無事に終わったら、それでええわ~」とゆるゆるな感じになることが出来ました。

平田さやかは、幸せを人との比較ではかろうとしているから、生きるのが大変なんじゃないかなぁ。「これまで頑張ってきたことが無駄になる」って思っちゃうと、心のどこかで間違っていると気がついても、簡単に軌道修正できないのもわかるんですけどね。

ありきたりですが、幸せなんて人それぞれ。目の前にたまたま現れた人と比較なんてしたところで、上には上がいるし、無駄ってもんです。

じゃりン子チエの名言

じゃりン子チエ」の単行本5巻のおばあはんの名言

「寒い、ひもじい、もう死にたい。 不幸はこの順番で来るんですわ!」

くらいの気持ちでいたら楽かもしれません(笑)

2話『平田健太の焦燥』ネタバレ

平田健太の立ち位置

夏、成績が下がった充に怒りを向けるさやかを、健太はうまくなだめ、平穏な空気にもっていくのが自分の務めだと思っていました。

高校を卒業するまでサッカーばかりしていた健太からすると、さやかのやっていることは「虐待」にしか見えませんでした。

とは言え、明治大学を卒業し、いなほ銀行に勤め、年収一千万という、世間ではエリートと呼ばれる部類にいても、東京では中の上程度。自分が、ローゼスタワーの高層階に届くことは絶対にありません。

だからこそ、健太は充の受験を応援しないわけにはいきませんでした。

新人の矢島亮太を押しつけられて

45歳の健太の役職は次長で、運が良ければ支店長になれる程度の未来しか見えていませんでした。憂鬱な気分の中、健太は新人社員の矢島の教育係を押しつけられます。もともと教育係になるはずだった新藤は精神を病み、会社に来れなくなっていました。

矢島は能力はあるものの、全くやる気がなく、愛想も悪い新人でした。家庭では、さやかから八つ当たりをされ、職場では矢島に振り回され、健太のストレスはピークに達していました。

奈々子との思い出

人事からお達しで管理職研修に行くことになり、健太は気晴らしになると喜びます。すると、その研修で目黒奈々子から声をかけられました。

奈々子は、健太が仙台支店に配属された3年目にやってきた後輩でした。奈々子とは個人的に会い、毎晩メールを送りあう仲まで発展し、健太はクリスマスイブに告白を決意します。しかし健太が告白をする前に奈々子の方から

平田さんってそろそろ東京に転勤ですよね?私も平田さんのことは好きだけど、私たちってそそういうのじゃないかなー

【息が詰まるようなこの場所で】87ページ

と涙を浮かべながら、先に言われてしまいます。「そういうの」の意味がわからないまま、健太は翌年には東京に戻り、それからは奈々子の活躍を噂で耳にする程度でした。

奈々子との夕食で

奈々子に誘われ、健太は久しぶりに豪華な焼き肉を食べることになります。夕食の席で、奈々子は「離婚するかも」と口にします。

奈々子にはニューヨーク転勤の話があり、夫に一緒に行くことを断られたというのです。

ままならないですねー、人生。平田さんも、さやかさんも、私は羨ましいですよ。仕事も子供も、全部持ってて

【息が詰まるようなこの場所で】91ページ

若い頃の奈々子は、自分の決めたタイミングで子供を作り、キャリアも両立させるつもりだったよう。卵子凍結までしていたと言います。

「平田さんと付き合っていたら、違った人生があったんですかね」と笑う奈々子に、あのクリスマスイブの夜、奈々子が自分とは違い、真剣に人生を考えていたのだと気がつくのでした。

はちこ
はちこ

やはり奈々子にも、取り戻せない過去への想いがありました。どんなにサバサバしているように見えても、悩みが何もない人生を送る人はいませんよね。

どの道を選んで歩んでも、ふとした瞬間に「あの時、あっちを選んでいたら」と思うことはあります。

そのたびに頭をぶんぶん横にふって「自分が選んだ方が幸せの道だ!」と信じて歩み続けた人が、自分だけの幸せにたどり着けるような気がします。

矢島の退職エントリー

9月中旬、健太が出社をすると、矢島が退職代行をサービスを利用し、会社を辞めると騒ぎになっています。健太は若手社員から、矢島がネットにあげた退職エントリー(退職理由や背景などを、退職者自らがネット上に投稿(エントリ)する文章)を見せられて呆れます。

矢島の退職エントリーは、独りよがりな自己陶酔で書いたとしか思えない文章でした。

矢島へ怒りをぶつけ

またもや支店長に押しつけられ、健太は矢島本人に会って、きちんと退職手続きをするよう言いに行かなくてはならなくなります。

少なくとも、いなほ銀行の名前や支店名まで明かした退職エントリーを公開され、手続きもせずに矢島を辞めさせるわけにはいきません。

矢島はすでに社宅を出ていたため、健太は転職先のTAIKENなる企業の住所を検索し、乗り込むことを決めました。

汗だくになり、不愉快な気持ちでたどり着いたTAIKENは、古臭く植栽も荒れ果てたマンションの一室にありました。チャイムを押すと「NHKは契約しない!」と若い男が怒鳴りながら出てきます。その男がTAIKENの代表取締役でした。

矢島は健太が銀行に呼び戻しに来たと勘違いしたようです。これまで、パワハラで訴えられるのを恐れ、優しく接してきた健太でしたが、ここぞとばかりに遠慮なく本音をぶつけます。

「ふざけんなよ、馬鹿にしやがって。お前、社会舐めてんのか」

と怒鳴る健太に、謝ったのは代表取締役の男でした。

矢島本人が手続きに出社し、退職エントリーも削除させる約束をとりつけ、健太は帰社します。内密にトラブルを処理できたことに大喜びする支店長を見た健太は、大企業に絶望する矢島の気持ちがわかる気がしてしまいました。

2話『平田健太の焦燥』感想まとめ

1話のラストで、マミと会ったさやかは「幸せとはなんだろう」と疑問を抱き、答えを出すことができませんでした。どうやらさやかは、そのまま教育ママの道を突っ走ることにしたようです。

夫の健太は、古い体制が残ったままのメガバンクいなほ銀行で、明治大学卒という高学歴でありながら、エリートコースをはずれていることに、どこか劣等感を持っています。だからこそ、さやかの充に対する学歴主義に疑問を持ちながら、強く反対できないんですよね。健太も、親としてどうするのが充の幸せに結びつくのかわからないんです。

2人の息子を育てて、しみじみ思うのは「親が考える幸せが、子供の幸せになるとは限らない」という事。健太のように「わからない」のは当たり前だと思います。

ただ一つだけ言えるのは、どう育てても子供が親に100パーセント満足することはないという事です。だからわからないながらも、必死で子供のことを考える…そして、子供からの想いを受け止める覚悟をしなくてはなりません。

良かれと思ってしたことを、成人した子供から責められるなんてことも結構あります(笑)

健太もさやかも、息が詰まるのを東京と言う場所やタワマンのせいにしていますが、夫婦の間で子育ての方針で悩むなんて、どこに住んでいたって同じだし、むしろ子供の為に悩んでやることが愛情だとさえ思います。

「あなたのために」と言いながら、自分のエゴを押しつけて、迷いも悩みもしないことの方が問題かも。

3話『高杉綾子の煩悶』ネタバレ

先を進む同級生たち

10月、高杉綾子は気まぐれに同窓会に参加するため、実家のある群馬に帰省していました。地元の同級生たちは結婚も早く、すでに孫がいたりと、綾子のように小学生を育てている人はほとんどいません。

「これからは自分のために時間を使いたい」

その言葉を聞いた綾子は、同級生たちに「セレブ」ともてはやされ悪い気はしない反面、玲奈が大学を卒業する時には、もう自分が60歳手前になるのだと思い知らされます。

夫の徹とは29歳で出会い結婚。なかなか子供にめぐまれず、不妊治療の末に授かったのが隆でした。

元カレの渡辺君

会話についていけない綾子がトイレに立つと、元カレの渡辺君と鉢合わせます。太っていて冴えない徹に比べ、バスケ部キャプテンだった渡辺君は消防士と言う職業柄もあり、鍛えられ引き締まった肉体をしていました。

「今何やってるの?」と聞かれた綾子は、家族の近況を答えてしまいます。「旦那や子供のことではなく、綾子自身が何をやっているのか?」と再度問われた時、綾子は「今は子供のことでいっぱいだから」としか答えられませんでした。

老いた母

綾子が東京に進学を希望した時、反対する父親を押し切って母親はお金を工面してくれました。お酒で暴力をふるうような父親も10年前に死に、綾子は年老いた母親に、もっと快適な場所に建つマンションに引っ越すことをすすめます。しかし、母親は「畳の上で死にたい」と頑なでした。

同窓会から帰ると、母親がお風呂を用意して待っていました。母親の優しさでさえ、綾子は疎ましく感じてしまいます。風呂から出ると、納戸の整理をして出てきた高校時代の写真を渡されました。

写真を見て、綾子は決して同級生たちの輪に戻ることはないと実感すると同時に、母親の優しさが突然身に染みて泣けてきてしまうのでした。

はちこ
はちこ

もてはやされ特別視されるという事は、綾子に嬉しさと同時に孤独な現実を直視させてしまったようです。

渡辺君も酷ですね~。主婦なんて、子育て中は、子育てがやっていることの全てになりがち。質問が意地悪いのなんのって。

渡辺君は元カレですから、綾子の心に同級生たちを見下している部分を感じ取っていたのかもしれません。

より高層のタワマンに越してきた小坂瞳と沙羅

開校10周年式典が終わり、綾子はローゼスタワーのパーティールームで打ち上げを開催します。そこには、アメリカから引っ越してきて訳もわからぬままPTA役員にさせられていた小坂瞳も参加していました。

瞳が住んでいるのは、ローゼスタワーより高く建築されたシーバスタワーの最上階でした。綾子が興味本位で聞いたアメリカの教育の話から、打ち上げの話題の中心は瞳になってしまいます。

その上、瞳の娘沙羅は帰国子女だけに英語はペラペラで、英語が得意な隆が褒めるほどだったのです。瞳の夫がスタンフォード大学卒の世界的IT企業勤務のエリートだとわかり、場はさらに盛り上がります。

15年のアメリカ生活と青山学院の英米文学科を卒業しているという瞳は、中学受験がすんだら資格を取って通訳をやろうかと思っているとか。

酔っぱらっていることもあり、綾子以外はみんなため口を聞いており、綾子はイライラした挙句、一人窓の外のシーバスタワーを眺めるのでした。

姑の和子と義弟豊

11月、高野家は義母和子の75歳の誕生日を祝うため、銀座の老舗中華料理店へ集まることに。そこには徹とは容姿も性格も似ていない弟、豊もいます。男児は医師になり、病院を継ぐ義務を負っているはずの高野家で、豊は企業を繰り返していました。

そんな中、隆は高野家の唯一の男児で、和子にとって期待の跡取りでした。結婚当初、綾子は和子から「どこの馬の骨ともわからない」ときつく当たられており、隆の教育にも当たり前のように口出しをしてきます。

実は、隆は内向的な性格と運動音痴のせいで、小学校受験を失敗した過去がありました。それ以来、綾子は子供の教育は全てプロに任せる決意をしたのです。

母親だからわかる隆の想い

食事の席で豊は

医者を目指すなんて時代遅れ。そのうち医師の仕事はAIに代替される。これからはテック産業だ。

と言い切ります。さらに、「受験勉強ばっかやってないで、アメリカ行って広い世界を見てくれば良いのに」と隆に言ったのです。

綾子は、隆の目に豊への憧れの光が宿るのを見逃しませんでした。子供の頃、親戚から東京の話を聞いた時の自分と同じだったからです。しかし、隆の目の光は、たちまち失われてしまいます。

綾子は息子の気持ちを見て見ぬふりをし、嫁の立場を優先しなくてはならないこの場所から、今すぐ逃げ出したくなるのでした。

はちこ
はちこ

和子は典型的な金持ちの嫌な姑役ですね~。

どんなにお金持ちでも、こんな姑がいて言いなりになっていたら人生台無しです。

ところで、豊の「医者の仕事はAIに取って代わられる」と言う主張は、本物の医師(和田秀樹さんだったかな?)もユーチューブで話していました。

医師の能力はもちろん一律ではなく、判断も異なります。

だったらAIに判断をさせた方が正確性が高くなるよね!というのが、その理由でした。

時代の流れはどんどんはやくなり、常識も昔とは変わっています。

最後まで責任もとれないくせに、孫の将来に口を出すのは、しゃしゃりすぎです٩(๑`^´๑)۶

3話『高杉綾子の煩悶』感想まとめ

お金があり、能力があり、継ぐ病院がある…生まれながら全てを手にしているようで、夢も希望も抱けない牢獄にいるような生き方をしなくてはならない小学校6年生の隆…不憫ですよね。

ところが、隆は小坂瞳の娘沙羅に影響され、消えたように見えたアメリカへの興味を内心膨らませて行くようです。

綾子は、それを「悪い影響」と感じ、つい隆に小坂家の悪口を言ってしまいます。瞳への嫉妬心もプラスされたんでしょうね。

綾子の立場を考えるとわからんでもないですが、子供を守るより自分を守ることを優先して、子供の希望の光を親の手で摘み取っちゃうのは、もったいない話です。

それにしても、子供を医者にしたいと思える親は、すごいなぁと思ってしまいます。人様の命にかかわる責任重大な仕事なので「あんた、後継ぎだから医者になるのよ」なんて、怖くて簡単に言えないと思うんですけどね。

綾子には、保身のために、隆の希望を犠牲にして欲しくないなぁと思いながら読み進めました。

4話『高杉徹の決断』ネタバレ

湾岸エリアのスケーター問題

昨今、湾岸地区はスケーターの聖地となっており、ローゼスタワーの管理組合では、問題として扱われていました。公園に集まるスケーターの騒音やごみ問題だけでなく、マンションの共用部分の構造物を破壊されてしまうこともあったのです。警察の取り締まりも追いつかず、困った住民たちは結論の出ない議論を繰り返していました。

高杉徹は、理事会に一緒に参加していた平田健太から、理事の一人で弁護士をしている男がSNSで過激な発言をしていると聞かされ、嫌な気持ちになります。

強い言葉は共感を呼ぶ一方、反感も買う

【息が詰まるようなこの場所で】193ページ

攻撃性の高い発言をしている男のアカウントは、炎上しているようで、むしろ湾岸エリアの評判を下げる要因になっているようでした。

ネットで暴れる心理

「受験前でさやかがピリピリしているから帰りたくない」という健太に誘われ、徹ははじめて伊地知翔の和食料理店を訪れます。スケーターにキレている弁護士の話題をすると、翔は

そういう人って、人生で他に誇れるものがないんじゃないすか?

自分のアイデンティティをマンションや街に投影して承認欲求を満たす人の気持ち、わからなくもない

スケボーに傷つけられたベンチや植栽を見て、自分が否定されたような気分になっちゃったんじゃないかな

と核心をつくようなことをさらりと言いました。

高杉徹の自己評価

暗くなった雰囲気に、翔が「高杉さんちなんて無敵じゃないすか」と話題をふってきます。確かに徹はローゼスタワーに住んでいることをアイデンティティにしなくてはいけない生活を送ってはいません。

しかし、徹は自分のことを

職業選択の自由すらなく、何不自由ない暮らしをしているだけ
高杉家を存続させるための歯車の一つ

と思っていました。

徹が自分で選んだのは妻の綾子だけで、あとは親から引き継いだものばかりだったのです。ローゼスタワーも相続税対策で税理士に言われるがままに買ったものでした。

綾子とのなれそめ

健太と翔に綾子とのなれそめを聞かれ「一目惚れです」と照れるように答えた徹。一目惚れの裏には、徹のドス黒い感情がありました。

徹は、綾子の野心と渇望を感じ取り、和子が望む嫁候補とは正反対の綾子を選ぶことで

人生をコントロールしてきた両親に反撃してやろう

と思ったのです。

自分の人生を取り戻せるのなら、綾子から愛されていなくても徹はかまいませんでした。

「スタンフ夫」小坂久弥と弟の豊

親の敷いたレールを走り、肛門科を継いだ徹でしたが、仕事には誇りをもっていました。肛門科医師が少ないだけでなく、大腸がんの増加で重要性は増していました。

午後の診療を別の医師にまかせ、徹は豊が経営するベンチャー企業アンビシオッソ(=スペイン語で野心的な)の新サービス発表会へと出かけます。そこで徹は、綾子たちが「スタンフ夫」と呼ぶ小坂久弥に声をかけられました。

久弥は、豊の会社に投資していたのです。しかも、誰もが知る大企業「大日本損保」も出資するとあり、発表会には記者も集まっていました。

豊の成功を喜べない感情

豊の打ち出した新サービスは介護関連であり、高杉家にもメリットをもたらすものでした。しかし、徹は豊の成功を純粋に喜ぶことができません。

豊の成功は、家の面倒ごとを全て徹に押し付け、企業の失敗や再起の資金を高杉家をたよった上に成り立つものだったからです。

肛門科の仕事に誇りを持っているはずの徹は、豊の成功を見て、自分が惨めに思えてしまいます。

さらに、スタンフ夫の娘の沙羅と甥っ子の隆の教育の話で、豊は「隆も医者になるんでしょ?勿体ない」と言い、徹の気持ちを逆撫でします。とは言え、徹自身も自分に似ている隆に「重い荷物を背負わせているのでは?」と不安になることがありました。

徹のPTSD

子供の頃、和子は定規で徹の左手を叩きながら、勉強を教えていました。小学校6年生の頃から、徹は左手が腫れて痺れるような症状に悩まされることになります。病院の検査では全く問題は見つからず、徹がPTSD(心的外傷後ストレス障害)だと知ったのは、医学部の勉強の中でした。

ストレス…特に和子の声を聞くと、今でも徹はPTSDに悩まされていました。隆の中学受験が成功し、大喜びする和子の声に、徹の左手はどうしようもなく疼きます。

受験が成功した祝いの席でさえ、和子はもう医学部受験のことを語り出します。その時、隆が

「ごめん、僕は医学部には行きたくない。医者よりエンジニアになりたい」

と、豊のようにアメリカの大学に行きたいと決意表明をしました。

隆の決意表明に対して

「クリニックはどうするの?」と騒ぐ和子に、徹は

隆には隆の人生があって、それはクリニックを守ることよりも大事だと思う。僕は、その気持ちを尊重したい

【息が詰まるようなこの場所で】228ページ

毅然とした態度で答えます。綾子も涙ぐんでおり、徹と同じ気持ちでいるようでした。

4話『高杉徹の決断』感想まとめ

高杉家は、隆の勇気によって、息が詰まるような場所から脱することが出来ました。徹と綾子が、息子の気持ちを尊重した場面では、鼻の奥がつ~んとして泣きそうになったほど、嬉しくなりました。

4話『高杉徹の決断』の中で、徹が和子のことを

この人にとって、子供も孫も、結局は他人に見せびらかすためのアクセサリーみたいなものなんだろう

と考えるシーンがあります。私自身もかつて同じことをよく思っていたものです。徹ほどではなくても、似たような思いを抱えて育った人は多いのではないでしょうか?

だからこそ、隆の決意表明をきっかけに、高杉親子が息が詰まるような場所から抜け出したことを、自分のことのように嬉しく思えたのかもしれません。

親が子を育てる時、実はそこまで精神的に大人になっていません。でも、子供から見た親は、絶対的な、恐怖さえ感じる存在です。

思春期に反抗できた子供は、親の呪縛から解き放たれることもありますが、大人しく気弱な子は大人になっても、ずるずると親の価値観を引きずって苦しみ続けていたりします。徹はまさにその典型的なパターンですね。

でも、大人になったら、誰よりも自分の気持ちを尊重し、相手が相手の気持ちを尊重することも受け入れないと、絶対に幸せになれないと思います。

子供のうちは、経済的に親に依存しているので、我慢しなくてはいけないことも多いです。でも、自分のしたことの責任を自分でとれるようになったら、自分の想いを優先し、恐れずに解放してあげましょう!

エピローグ『平田充の発奮』ネタバレ

時は過ぎ、平田充は慶応大学4年生になっていました。サークルとバイトと麻雀で大学生活を過ごしてきた充は、内定を一つもとれていません。

それなりにやっていれば、父親の健太と同じ程度の暮らしは手に入るだろうと甘く見ていたのです。園健太は現在、青森へ単身赴任し、支店長をしていました。

商社の2次面接で惨敗し、ローゼスタワーに帰る途中、充は久しぶりに隆と出会います。隆は子供の頃とは違い、精悍な顔つきになっていました。

隆から「充にはリーダーシップがある、子供の頃に声をかけてくれて感謝している」と言われ、充は恥ずかしく思います。

しかし、隆の言葉で充は、自分を変えるためにもがいてみようと思いなおし、明日の面接に備えるのでした。

エピローグ『平田充の発奮』感想まとめ

私たちの悩みの多くは、人間関係だと言われています。最近では、人間関係も断捨離しようと言う考え方も増えていますが、幸いをもたらしてくれるのも人間関係なんですよね。

【息が詰まるようなこの場所で】でも、妬ましいと思っていた相手との出会いで救われたりすることが、いくつか起きています。充も、たまたま隆と会ったことが「自分を変えるタイミングだ」と思うチャンスになりました。

【息が詰まるようなこの場所で】感想まとめ

はちこ
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【息が詰まるような場所】は紙書籍のカバー裏だけに短篇「高杉隆の初恋」を、電子書籍巻末だけに「目黒奈々子の後悔」が収録されています!私は紙書籍を読んだので、「目黒奈々子の後悔」が気になります。

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あるYouTuberが「怖い作品」と紹介していて読んでみた【息が詰まるようなこの場所で】。作者の外山薫さんは、窓際三等兵というアカウント名で、ツイッター(X)の投稿を元にこの作品を書き上げたようです。

今もかなり積極的に、そして割ときわどい発言をしている窓際三等兵さんですし、テレビで話題になり、軽い気持ちで読み流した人にとって【息が詰まるようなこの場所で】は、たしかに怖い作品だったかもしれません。

私自身も、自分の中にかつて存在したどすぐろい感情を、掘り起こされるような気持ちになった場面もありました。

ただ、この記事を書きながら、しっかり読み込んでいくと「怖さと同時に、人との関係性の大切さや、悩み苦しんだ先にある希望を描いているのでは?」と思うようになりました。

どう考えても毒親、毒祖母である高杉家の和子にでさえ、徹を通して理解を示しているからです。

歪んだ形の愛情ではあるが、母には母の、また違った戦場があるのだろう。親になり、ようやくわかってきた

【息が詰まるようなこの場所で】230ページ

とんでもなく嫌な奴に見えても、その人を深堀すると、愛すべき一面や弱さなどが見えてくるもの。人間はちょっとした事でコロコロと心を変えていく生き物なので、裏表があるのは当たり前だからです。

【息が詰まるようなこの場所で】の登場人物たちも「これではいけない」と思いながら、自分をコントロールできずにいます。心の中にある矛盾に気がついても治せないのは、地獄です。

私も人間関係ではさんざん悩み、人間不信になったこともありますが、救ってくれたのも人でした。なので今では、自分より優れている人に囲まれていたいと思っています。以来、他人を妬む気持ちは、一切なくなりました。悩ましい時、優れた人たちに聞けば、高確率で悩みは解決!とってもハッピーです。

【息が詰まるような場所】を読んで、改めてこの考え方になれてよかったなぁと実感しました。

【息が詰まるような場所】は出版時に話題を呼んだだけあり、ドラマ、映画化は確実だと個人的に思っています。その時はぜひ、イメージダウンを恐れずに腹黒い部分を赤裸々に演じてくれる俳優さんたちをキャスティングして欲しいものです。

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