湊かなえ原作【落日】のあらすじネタバレ感想記事です。
湊かなえさんと言えば
- 告白
- 望郷
- 北のカナリアたち
- 白ゆき姫殺人事件
- 少女
- 贖罪
と、数々の作品が映画化され、高い評価を得てきました。
映画化されるのでは?と噂されてきた【落日】ですが、今回、WOWOWで連続ドラマ化されることが決定。
それにあたり、改めて原作の【落日】を読み、あらすじネタバレ感想記事を書いてみました。
湊かなえさんの作品は、思いがけない…しかも衝撃的な結末を迎えることも多いですね。
ミステリーであると同時に、登場人物の本当の姿や思いが丁寧に描かれており「誰が悪者なの?」と考えさせられることも多い作家さんだと思います。
そんな【落日】は、湊かなえさんがデビュー11年目に、角川春樹さんの「裁判」担当編集者さんの「映画」というキーワードから生まれた作品です。
また、サムネイルにも言葉として入れてみたのですが、【落日】では「虐待」も大きなテーマに。
はたして「虐待」とは、どこからどこまでを言うのか、とても考えさせられる作品です。
湊かなえさんは【落日】を発表するにあたって
「落日」という言葉には没落するようなイメージがありますが、沈むからこそ新しい日が昇るのだと思います。
こんな言葉をのこしています。
とても重いテーマの行く先に、明るい未来がある…そんな【落日】のあらすじネタバレをお楽しみいただけたらと思います。
湊かなえ【落日】登場人物
甲斐 真尋(ペンネーム 甲斐千尋):大畠凛子の事務所で働く脚本家
甲斐 千穂:甲斐 真尋の優秀な姉。ピアニスト。笹高普通科。
甲斐 佳奈子:真尋の母。
長谷部 香 :世界的に有名な映画監督。「笹塚町一家殺害事件」を調査し、映画化したいと考えている。
長谷部 真理:長谷部 香の母。
長谷部 裕貴:長谷部 香の父。自殺した。
立石沙良:「笹塚町一家殺人事件」の被害者。
立石力輝斗:「笹塚町一家殺害事件」の犯人で死刑囚。
大畠凛子:恋愛ドラマの女王と呼ばれたこともある大物脚本家。
佐々木信吾:真尋の元彼。制作会社ドラマラス勤務。
神池芳江:真尋のおばさん。
神池正隆:真尋の秀才の従兄弟で現在は医師。香と千穂とは幼稚園が一緒だった。笹高特進科。
橘イツカ:正隆の元カノ。笹高陸上部。
森下広哉:笹高生徒会長で人気者。立石沙良の彼氏。
佐倉俊平:森下広哉の親友。笹高バスケ部。
葛城淳和:立石力輝斗の精神鑑定を最初に担当していた医師で、力輝斗の心神喪失を訴えた。
明神谷源之助教授:著名な精神鑑定医で、立石力輝斗を担当。力輝斗に責任能力があったと診断した。
下山兼人:長谷部 香と同学年で、進学塾のクラスメイト。いじめをうけており自殺してしまった。
橋口陽菜:立石沙良の同級生。
湊かなえ【落日】ネタバレ(あらすじ)
湊かなえ【落日】幼き日の長谷部香の思い出
幼き日の長谷部香は、しつけの厳しい母親に育てられており、幼稚園児の頃から、夕食後には勉強の時間がもうけられていました。
年長に上がる頃には、小学校2年生のドリルをやらされており、7割正解しないとベランダに出されるというお仕置きを受けていました。
最初にベランダに出された時、泣かなかったため、そのお仕置きは習慣化されていきます。
そんなある日、隣の部屋との仕切り板の下から、爪がひどく汚れた白い手がのぞいていることに気がつきます。
「あの子にまた会いたい」
そう思うと、ベランダに出されることが楽しみにさえ感じられるようになった香でしたが、プレッシャーがなくなったせいか、✖がつくことが少なくなってしまいます。
わざと回答を間違えてベランダに出た香は、その手の甲に小さな赤い水膨れを見たのでした。
ある日の事、香は実際に会って姿を見たいと思っていたお隣の女の子と、近所のスーパーで会う事が出来ました。
その子の名前は立石 沙良、色白で可愛らしい女の子でした。
そんな折、香の父親が自殺をしてしまい、香は母親と共に引っ越しをすることになってしまいます。
死にたいと考えては沙良ちゃんを思い出していた香が18歳になった頃、沙良は殺されてしまいました。
湊かなえ【落日】甲斐真尋と長谷部香の出会い
大物脚本家 大畠凛子の事務所で働く甲斐 真尋は、ペンネーム 甲斐千尋として脚本家デビューしたものの、鳴かず飛ばずで過ごしていました。
そんな時、有名な映画監督である長谷部香から、新作の脚本について相談があるとメールが届きます。
連絡先を教えたのは、浮気をされて別れた元カレ 佐々木信吾でした。
香に会う前に、彼女の代表作「一時間前」を上映している映画館で、内容をチェックする真尋。
「一時間前」は、自殺をしようとする人たちの最後の1時間をドキュメント形式で描いた作品でした。
香に会ってみると、彼女は真尋のことを、姉の甲斐 千穂ではないかと誤解していたことがわかります。
真尋のペンネームが、姉の才能にあやかろうと1文字とって、甲斐千尋にしていたせいでした。
香は、真尋の姉 千穂とは、幼稚園時代の同級生だったと言います。
千穂の現在を聞いてきた香に「ピアニストとして世界中を飛び回っています」と答えた真尋は、自分では力になれないかを香にたずねます。
そうして、香が真尋に出してきたのは「笹塚町一家殺害事件」のファイルでした。
湊かなえ【落日】笹塚町一家殺害事件と香の意図
「笹塚町一家殺害事件」とは、15年も前に起きており、犯人は逮捕され、裁判の判決も出ている事件でした。
クリスマスイブの夜、引きこもりだった立石 力輝斗は、高校三年生だった妹 立石 沙良を刺殺後、家に火を放った結果、両親も死んでしまったというのが「笹塚町一家殺害事件」の概要でした。
真尋の記憶をたどって行くと、アイドルグループのオーディションに受かったと言っていたことが嘘であったりと、立石沙良には虚言癖があり、誹謗中傷にさらされたことがわかります。
しかし、幼い頃から救いとなっていた「沙良ちゃん」と、真尋が語る立石沙良ちゃんの違いに、香はどうにも納得がいきません。
- 沙良が本当はどんな人間だったか
- 沙良を殺めた兄はどんな人だったか
- なぜ沙良は殺されなければならなかったか
それを知って、世間に伝えたいという香に、真尋は同意することが出来ませんでした。
湊かなえ【落日】橘イツカが語る立石沙良
法事で実家へ帰ることになった真尋は、従兄弟の正隆から元カノである橘イツカを紹介され、立石沙良がどのような人物であったかを聞くことになります。
橘イツカは、正隆の高校(笹高)時代の同級生で、立石沙良も同じ高校に通っていました。
立石沙良とは親友だったというイツカ。
しかしその話はかなり壮絶なものでした。
陸上の成績が良く、強豪校から声もかけられるほどだったイツカに「運動が出来てうらやましい」と声をかけてきたのが沙良だったそう。
沙良は、心臓が悪く激しい運動が出来ないとのことで、やたらとイツカにベタベタとしてきました。
ちょっと気持ち悪いと思ったものの、沙良に笹高生徒会長で人気者の森下広哉という彼氏が出来ます。
沙良、イツカ、森下広哉、広哉の親友である佐倉俊平が加わり、仲よし4人グループが出来上がりました。
しかしある時、沙良と佐倉俊平が友だちとは言えない状態でいるところを、彼氏の広哉とイツカは目撃してしまいます。
自ら身を引いたはずの森下広哉でしたが、なぜか沙良をストーカーしているという噂が立ち、森下広哉は不登校になってしまったのでした。
その時はまだ沙良を信じていたイツカでしたが、ある日の事、沙良から佐倉俊平(森下広哉と別れた後付き合い始めた)の祖母の家の屋根に上って、夕日(落日)をみようと誘われます。
沙良に挑発されたイツカは、運動神経には自信があったため、屋根に上ることに。
しかし、沙良の手をつかんだことにより、イツカは屋根から落下、入院するほどの怪我を負い、部活も引退することになってしまったのでした。
後日、佐倉俊平から、沙良の身の上話が全て嘘であったことがわかります。
しかもそのことを問いただした佐倉俊平に対し、沙良は悪びれた顔をすることもせず、イツカとも縁を切ってしまったのでした。
正隆は「沙良はもっと大きな嘘をついていたんじゃないかと思う。香にはそこを掘り下げて欲しいんだ」と真尋に言います。
そして、イツカの足は今でも杖をつかなければならないような状態なのでした。
湊かなえ【落日】真尋と正隆は香に沙良の本性を伝え…
真尋は正隆と共に、香に会って、イツカから聞いた沙良の本当の姿を伝えます。
しかし、幼稚園の同級生であった天才児正隆のいう事でさえ、どうしても香は受け入れることが出来ません。
そんな香に正隆は「香の知っている立石沙良」について教えてもらえるように頼みます。
幼少時、ベランダにお仕置きとして出されていた頃のエピソードを聞いた真尋は、幼かった頃の香の想いを想像し、心から謝罪をします。
虐待の積み重ねにより、沙良は変わってしまい、虚言癖がでるようになったのかもしれないといった仮説を立てますが、正隆は
立石沙良は常軌を逸した天才クラッシャー、天才を引きずりおろすことに快感を得る人
だったのではないかという考えを持っていました。
香はもちろんのこと、真尋も正隆の説には賛成しかねます。
すると正隆は
ベランダの防火壁の向こうにいたのは、本当に沙良なんだろうか?
という疑問をぶつけてきました。
つまり、香の心の支えになっていたのは、沙良の兄であり、「笹塚町一家殺害事件」の犯人でもある立石 力輝斗ではないかと言うのです。
真尋が小学生の頃、立石力輝斗は『ネコ将軍』と呼ばれていた記憶が呼び起こされました。
『ネコ将軍』は、ガリガリに痩せていて、ネコ模様の巾着を持っており、後ろにネコを引き連れながら、公園の奥の東屋へ向かっていたと…。
その様子はどこか普通ではなく、虐待されていても納得できる雰囲気だったと真尋は言うのでした。
湊かなえ【落日】立石力輝斗の精神鑑定に関わった医師の話
香に誘われ、真尋は立石力輝斗の精神鑑定を最初に担当していた医師 葛城淳和に会いに行きます。
立石力輝斗の精神鑑定を最終的に担当した、著名な精神鑑定医 明神谷源之助が
「立石力輝斗には責任能力があった」
と診断したのに対し
葛城淳和医師は、力輝斗の心神喪失を訴えた人物でした。
葛城淳和医師は、力輝斗の鑑定に要した時間は「ひと月」しかなかったと言います。
力輝斗が葛城淳和医師に語った内容とは
- 動機:母親が用意したクリスマスケーキを沙良と食べていたところ、引きこもりであることなどを馬鹿にされ、アイドルになった時に身内にいると困るから自殺してくれと言われた。
- 殺害方法:ケーキを切る包丁で思わず刺した。沙良が起き上がってくるのが怖く何度も刺してしまった。遺体はベッドに隠し、犯行を隠すために火をつけた。
- 両親について:両親が帰宅していることは知っており、逃げ遅れれば良いと考えていた。沙良ばかりかわいがる両親を恨んでいた。
- 力輝斗の主張:犯行時の事は全て覚えているので精神鑑定は必要ない死刑にしてほしい。
というものでした。
葛城淳和医師は、力輝斗が多くを語らず、悪意を持って犯行にのぞんだと主張するのは、死刑になりたいだけではないかと推測。
教授である明神谷源之助に、カウンセリング期間の延長を申し込んだものの、却下されてしまいました。
世間から注目を浴びていた明神谷源之助の鑑定は、世間の期待に添うものがおおいように思うと葛城淳和医師は語ります。
葛城淳和医師は、
- 温厚なはずの力輝斗が、沙良を何度も刺してしまった理由には、もっと深いものがあるのではないか?
- そして両親が帰宅していることに気がついていたということも疑わしい
このような理由から、再カウンセリングの必要を訴えていたのでした。
湊かなえ【落日】真尋の姉 甲斐千穂の死と「あの人」の存在
葛城淳和医師からの話を聞いた後、香から「あなたも心療内科にかかったことがあるの」という質問を受けたことで、香の考えや信用性について、一気に疑いを抱いてしまった真尋。
そんな中、香が正隆に、真尋の姉 千穂についてたずねていたことがわかります。
カッとなった真尋は香に対し、生きているようにふるまっている千穂は、ずっと前に死んでいることを叫ぶように伝え、香の無神経さを責めます。
真尋の姉 甲斐千穂は、高校1年生の初夏の頃、ピアノ教室からの帰り道、自転車に乗っているところを車にひかれ亡くなっていたのでした。
そして千穂をひいた犯人は、千穂が信号無視して飛び出してきたと主張。
真面目な人柄だったため、その主張が通った犯人は、家族を連れて、甲斐家に謝罪に訪れました。
その時から、母親がまるで千穂が生きているかのようにふるまいだし、母親が亡くなってからも、父親との間で「千穂が生きている設定」が続いてると、真尋は香に説明。
そして、香は自分自身も、中学時代の同級生の死により心療内科に通っていたことがあると告白し、言葉が足らなかったことを謝るのでした。
その後、真尋は父の住む自宅へと帰省し、姉 千穂の残された私物を見てみることにします。
すると、引き出しからは猫のイラストがついたグッズがたくさん出てきます。
そして日記も…。
日記にはコンクールの反省ばかりが書かれていましたが、読み進めると、公園で逆上がりの練習をしている時に出会った「あの人」が登場します。
それは「あの人」と関わる中で、逆上がりが出来るようになった千穂がお礼にチョコレートをプレゼントし、自分の無神経さを反省するといった内容でした。
「あの人」に手紙を書くことにしたから、日記は今日でお休み。
と書かれてからの続きはありません。
「あの人」とは誰だったのか…それは真尋の父も知らないことでした。
真尋は、芳江おばさんにも千穂の好きな人を知らないかと尋ねます。
すると、千穂が音大付属ではなく、笹高へ行きたいと言い出した頃、感じの良い男の子と近所の山道を下りてきたところを見たと言います。
そこで真尋は、事故当時、姉 千穂が持っていた携帯電話の中に「あの人」が写っているのではないかと期待し、携帯ショップへと足を運ぶのでした。
そんな中、真尋は同じく「笹塚町一家殺害事件」の脚本を書こうとして競っている大畠凛子先生と共に、真尋の地元であり、事件に関わった場所をめぐることになります。
すると大物のつてを使って情報を収集しているとばかり思っていた大畠が「Facebookで見つけた」という、立石沙良の同級生 橋口陽菜に連絡をとり、アポを取っているとのこと。
橋口陽菜によると「立石沙良疫病神伝説はあったが、付き合っていたサッカー部の男子は引退まで普通に活躍していた」と言います。
すると思いがけず橋口陽菜の口から「1年生の時に、交通事故で亡くなった子がいて」と、真尋の姉と思われる人物の話が出てきます。
出身中学も、クラスも違っていた立石沙良と姉 千穂を結び付けたこともなかった真尋は混乱。
しかし、千穂は沙良の事を「いい子だよ」と立石沙良疫病神伝説を否定するほどの親しさだったことがわかります。
そして橋口陽菜は最後に「嘘つきだから殺されてもいいなんておかしい」とお悔やみの言葉を残したのでした。
次に向かった先は、立石家と長谷部家が暮らしていたアパートでした。
そこで真尋と大畠は、立石家の階下の部屋に当時から今も住んでいるという60歳すぎの女性から声をかけられます。
女性は、ベランダに出されるような虐待を受けていたのは、兄の 立石力輝斗に間違いないと言い、沙良はそんな兄の姿を指さしてけらけらと笑うような性悪だったと言うのでした。
大畠先生と別れ、1人で姉 千穂が「あの人」と逆上がりをしたかもしれない公園を探す真尋。
鉄棒のある公園を見つけた真尋は、そのすぐ近くの交差点で、恐ろしい想像をしてしまいます。
それは自転車に乗った姉の前を走る誰かの姿…事故にあった姉をそのままにしていく姿でした。
そして、真尋は芳江おばさんが、姉と男の子を見かけたという山道の上にある鉄塔へと向かいます。
姉の携帯電話から知ったその場所からは、手紙の束が…。
こうして真尋は、甲斐千穂を主役とした「笹塚町一家殺害事件」を完成させたのでした。
湊かなえ【落日】感想
amazonで【落日】を見てみる
真尋が見つけた姉 千穂の手紙から完成させた物語は、380ページある湊かなえ【落日】の中の9ページしかありません。
しかし、甲斐千穂から見た「笹塚町一家殺害事件」は、世間で知られているものとは全く違い、悲しい結末を迎える初恋の物語と言っても良いものでした。
原作の【落日】には、あらすじネタバレには書ききれなかった
- 香と祖母との関係
- 香と下山兼人のエピソード
- 香の父 長谷部 裕貴の死の真相
なども語られています。
目を背けたいような真実と向き合い、自分なりの解釈で、ある種のケリをつけられた真尋と香は、湊かなえさんが語った「落日の後の新しい日」を迎えられたように思います。
真尋の物語でもある「笹塚町一家殺害事件」の脚本を、香がどのように映画化するのか、映像で見てみたいなと思いました。
壮大なストーリーである【落日】、WOWOWで連続ドラマ化が楽しみです。