2022年12月2日に映画【月の満ち欠け】が公開されます。
【月の満ち欠け】は、第157回直木賞を受賞した作品です。

著者の佐藤正午さんは1955年うまれの作家さんで、2022年現在67歳です。
そのため原作には難しい文字が使われていたりすることもあり、ちょっと読みづらいという方も。
【月の満ち欠け】にも、そういう部分があり、最初は「うっ、とっつきにくいかも?」と思ったのですが、単なる純愛小説ではなく、ミステリー的な要素もあったりして、結局ぐいぐい引き込まれてしまいました。
映画のキャストを思い浮かべながら読んだのですが、素晴らしいキャスティングだと思います。
この記事では、【月の満ち欠け】のネタバレあらすじ感想とともに、最も注目されているSnow Manの目黒蓮くんをはじめとするキャストの紹介などもしてみたいと思います。
映画【月の満ち欠け】原作はどんな話?目黒蓮演じる三角哲彦とは?あらすじ紹介
【月の満ち欠け】は、三角哲彦(目黒蓮)と正木瑠璃(有村架純)が恋に落ちたことを発端にはじまる物語です。
大学生だった三角哲彦は、1980年の雨の日、バイト先のレンタルビデオ店の店先で、正木瑠璃と運命的な出会いし、恋に落ちます。
しかし、正木瑠璃は人妻であり、それは許されざる恋でした。
ある夜の事、逢瀬の際に、三角哲彦は正木瑠璃から「たとえ死んでも、月が満ちて欠けるように何度も生まれ変わって、アキヒコくんの前に現れる」と言われます。
その一週間後、正木瑠璃は不慮の事故で死亡してしまいました。
正木瑠璃の死後、三角哲彦は生前の約束を思い出し、姿かたちを変えた正木瑠璃が自分の元へと訪れるのではないかと考えながら暮らします。
1年もたった頃から、三角哲彦は大学に復学し、普通の人生を歩きだしますが…。

死んでしまった正木瑠璃ですが、転生を繰り返し、そのたびに三角哲彦に会おうと試みます。
しかし、瑠璃の記憶が新たな肉体でよみがえる時、たいていは子どもの姿。
簡単には、知らない大人となってしまっている三角哲彦に会う事はできません。
三角哲彦に会おうとしたため、瑠璃は幼いまま死を遂げてしまうこともあり、同時に周囲の人々は苦悩します。
【月の満ち欠け】で、全てがわかり、瑠璃(の魂)が彼と再会を果たす時、三角哲彦はすっかりおじさんです。
不倫から始まった2人の恋ですが、決して肉体的に交わることがないとわかりながら三角哲彦を求め続ける瑠璃の想いは、怖いくらいに”純愛”だと思えました。
映画【月の満ち欠け】劇中歌|(ジョンレノン)
映画【月の満ち欠け】の劇中歌はジョンレノンのです。
は、ジョン・レノンが女性に捧げる曲としてつくりました。
あなたを愛している
now and forever
今も、そして、これからもずっと
の部分が【月の満ち欠け】とリンクしますね。
映画【月の満ち欠け】キャスト(登場人物)
画像は映画【月の満ち欠け】公式からお借りしています
- 小山内堅(大泉洋)
- 正木瑠璃(有村架純)
- 小山内梢(柴咲コウ)
- 三角哲彦(目黒蓮)
- 正木竜之介(田中圭)
- 緑坂ゆい(伊藤沙莉)
- 小山内瑠璃(菊池日菜子)
小山紗愛(子役)・阿部久合亜(子役)・尾杉麻友(子役)・寬一郎・波岡一喜・安藤玉恵・丘みつ子
原作【月の満ち欠け】登場人物
- 小山内堅
- 正木瑠璃(旧姓 奈良岡) 死亡時 27歳
- 三角哲彦 正木瑠璃と出会った時、大学2年生20歳 現在は50歳を過ぎている
- 小山内梢(旧姓 藤宮) 小山内堅の亡くなった妻
- 小山内瑠璃 小山内夫妻の亡くなった娘
- 正木竜之介 正木瑠璃の夫
- 緑坂ゆい 小山内瑠璃の友人 現在は女優
- 緑坂るり 緑坂ゆいの娘 7歳
- 荒谷清美 小山内堅の現在のパートナー
- 荒谷みずき 荒谷清美の中学生の娘
- 三角典子 三角哲彦の6歳年上の姉 小山内梢の中高の友人
- 中西 三角哲彦のバイト仲間
- 八重樫 正木竜之介の会社の先輩
- 小沼希美 正木竜之介の再就職先の娘
映画【月の満ち欠け】原作ネタバレあらすじ
小山内堅(大泉洋)梢(柴咲コウ)瑠璃(菊池日菜子)家族の悲劇
青森県八戸市に生まれた小山内堅(大泉洋)は、大学時代に同じサークルに所属していた藤宮梢(柴咲コウ)と交際後、結婚します。
小山内堅は、当時その存在を知りませんでしたが、藤宮梢は高校の後輩でもありました。
やがて2人の間には娘が生まれ、梢のたっての希望で「瑠璃」と名付けられます。
小学校2年生になった頃、瑠璃は高熱を出し、1週間もの間、苦しみます。
瑠璃は無事に回復しましたが、梢は「娘が変わってしまった」と訴え始めます。
その変化とは瑠璃が
- クマのぬいぐるみを知らない男の名「アキラ」と呼び始めた
- 昔の歌(黒ネコのタンゴや黛ジュンの夕月など)を歌うようになった
- 高級ライター「デュポン」を見分けることができた
- 吉井勇の和歌 君にちかふ 阿蘇のけむりの 絶ゆるとも 万葉集の 歌ほろぶとも とノートに書いていた
といったものでした。
このことから、瑠璃が「アキラ」のもとへ行ってしまう気がするという梢ですが、小山内堅がその話を信じることはありませんでした。
そんなある日の事、瑠璃が放課後、友だちの紗英と別れてから、行方知れずになるという事件が起こります。
その日のうちに瑠璃は、高田馬場駅でレンタルビデオ店を探しているところを無事に保護されました。
警察の話から小山内堅は、瑠璃がこれまでにも2度、同じようなことをしていたことを知ります。
帰り道、瑠璃は小山内堅に、古い歌もデュポンのライターのことも、前から知っていたのだと言います。
そして、ひとりで旅行をしたいのだとも…。
そんな瑠璃に小山内堅は、高校を卒業するまで、ひとりで旅行することは我慢すると約束をとりつけます。
瑠璃は約束を守り、11年の月日が流れました。
しかし、高校の卒業を終えた瑠璃は、梢の運転する車が起こした事故により、2人ともに命を落としてしまったのでした。
小山内梢(柴咲コウ)瑠璃(菊池日菜子)の事故死から15年後
妻と娘を失ってから15年後の事、小山内堅は、亡くした娘の友人だった緑坂ゆい(伊藤沙莉)と7歳の娘 緑坂るり、そして三角哲彦(目黒蓮)と会うことになります。
驚いたことに、緑坂るりには、小山内瑠璃(菊池日菜子)だった頃の記憶があると言うのです。
小山内瑠璃として生きていた頃、家族そろってどら焼きを食べたと話しますが、小山内堅は覚えていないし、信じることもできません。
その上、緑坂るりは、小山内堅が持参した娘の遺品を「自分のものだ」と言います。
その遺品とは、かつて美術部員だった小山内瑠璃が描いた油絵で、三角哲彦の顔が描かれていました。
小山内堅は、これまでに2度ほど三角哲彦に会った事がありました。
1度目は、妻と娘の葬儀の折、2人の事で話をしたいと三角哲彦がやってきたのです。
しかし、正気をたもつのが精いっぱいだった小山内堅は、その申し出の事も、三角哲彦の顔もすっかり忘れていました。
2度目は、今年(15年後)の7月、お墓参りにきていた三角哲彦と、現在のパートナー 荒谷清美の娘 みずきが偶然出くわし、自宅に連れて帰っていたことによるものでした。
三角哲彦は、自分のことを「三角典子の弟だ」と名乗ります。
三角典子は、妻 小山内梢(柴咲コウ)の、中高の友人でした。
三角哲彦(目黒蓮)と正木瑠璃(有村架純)の物語
小山内堅のもとを訪れた三角哲彦(目黒蓮)は、にわかには信じがたい30年以上にもわたる物語を語りはじめます。
小山内堅の8年後に、同じ高校を卒業した三角哲彦は、東京の大学に進学し、高田馬場にあるレンタルビデオショップでアルバイトをしていました。
ある雨の日の事、三角哲彦は店の前で雨宿りをしている女性 正木瑠璃(有村架純)と出会います。
長い髪を雨で濡らしている正木瑠璃を気遣った三角哲彦は、タオルがなかったため、自分のTシャツを渡し、使ってもらいます。
その後、出身地が同じ青森であることを知った2人は、郷土料理の”いちご煮”の話などで意気投合。
が、そこにバイト仲間の中西がやってきたことで、話は中断され、正木瑠璃はその場を去ってしまいました。
「年上の美女をみすみす逃したアホ」と中西からお説教をされた三角哲彦は、悔やんだあげく、”映画を見に行こうとしていた”正木瑠璃に会えることを期待しながら、東映パラスや早稲田松竹で映画を見るようになります。
1か月を過ぎたある日の事、三角哲彦が例のTシャツを着て早稲田松竹のロビーにいると、正木瑠璃から声をかけられました。
正木瑠璃は新品のTシャツを、三角哲彦はいちご煮の缶詰を持ち歩いており、お互いに交換をします。
その時はじめて三角哲彦は、彼女の名前が”るり”だと知ったのでした。
正木瑠璃の誘いで、2人はまた映画を一緒に見る約束をして別れます。
家に帰り、広辞苑で”るり”の意味を調べた三角哲彦は、そこに
瑠璃も玻璃も照らせば光る
ということわざを見つけます。
つまらぬものの中に混じっていても、すぐれたものは光を当てれば輝いてすぐにわかる
そんな意味をもったことわざを、三角哲彦は絶対に忘れないと誓うのでした。
翌週の事、約束通り2人は映画館で3時間を超える大作『ドクトル・ジバゴ』を鑑賞しますが、三角哲彦の意識は、隣に座る正木瑠璃にむいており、内容が記憶に残らないほど緊張します。
映画が終わり、夜の街を歩く中、2人の話は名前の話題へとうつります。
彼女の名前が「瑠璃」という漢字をあてるのだと知った三角は、自分の名が「哲彦」と書いて「アキヒコ」と読むこと、実は本当は哲と書いて「アキラ」と読む名前になるはずだったと、瑠璃に教えます。
そして、母親は今でも時々「アキラ」と呼ぶことも…。
この話を面白がった正木瑠璃は、この後から三角の事を「アキヒコくん」「アキラくん」と呼ぶようになります。
結局その夜、正木瑠璃は朝まで三角哲彦のアパートで過ごし、一夜を明かしたのでした。
正木瑠璃への連絡手段をもたないまま、三角哲彦は2週間の時を過ごし、不安のあまり中西に初体験のことを打ち明けます。
「恋に溺れる人妻は必ずやってくるから待っていればよい」という中西でしたが、三角哲彦は正木瑠璃にばったり会えるのではないかと、探索する日々を送っていました。
1か月以上経ったある日の事、バイト先に向かおうとする三角哲彦は、公園のベンチで、猫におにぎりを分け与える”どこかのおばさん”を見かけます。
そのおばさんこそ、三角哲彦が探し求めていた正木瑠璃でした。
「ずっと連絡を待っていた」という三角哲彦に、正木瑠璃は「ああいうことに自信がないし、(人妻と言う)立場もあるから、自分から積極的に連絡をとることをためらっていたと告白します。
もう会わない方が良いという正木瑠璃ですが、三角哲彦は「せめてもう一度だけゆっくり会いたい」と哀願します。
そんな三角哲彦に、正木瑠璃は「もう一度採点するつもりなんだね」と、考えておくことを約束するのでした。
翌週、正木瑠璃は結論を出し、2人は定期的に逢うようになり、男女の関係を深めていきます。
やがて12月がやってきて、一夜を共にした後、正木瑠璃は煙草を吸う三角哲彦に対し「アキヒコくんは社会人になったら、ダンヒルやデュポンなどのちゃんとしたライターを持つようになる」と予言めいたことをつぶやきます。
正木瑠璃は、かつて高級なライターなどを扱う煙草屋で働いていたことがあり、夫ともそこで出会ったのだと説明。
その後、ふと思い出したように正木瑠璃は、夫の会社の男性が「ちょっと死んでみる」という遺書を残して自殺したのだと語りだします。
そして、その気持ちがわかるような気がするとも。
「そんな怖いこと言わないで」と止める三角哲彦に正木瑠璃は
「月の満ち欠けのように、生死を繰り返し、アキヒコくんの前に現れる」
と言い、三角哲彦は
「瑠璃も玻璃も照らせば光る、から僕には瑠璃さんの生まれ変わりだとわかる」
などと答え、じゃれ合った2人の間で、試し死にの話はうやむやに流れていったのでした。
その1週間後、正木瑠璃が地下鉄の電車にひかれて死んでしまった事を、三角哲彦は新聞記事で知ることになります。
正木瑠璃の死は、自殺ではなく不慮の事故でしたが、三角哲彦は瑠璃が命を落とす瞬間、きっと「試し死に」のことを思い出したに違いないと信じ込みます。
正木瑠璃の死後、三角哲彦は大学に通う事もせず、瑠璃も玻璃も照らせば光ると唱えながら、瑠璃の生まれ変わりを探し求める1年間を過ごしたのでした。
18年後、三角哲彦(目黒蓮)に小山内瑠璃(菊池日菜子)から電話がきて…
やがて18年もの月日が流れた頃、38歳になった三角哲彦は小山内堅の娘 小山内瑠璃(菊池日菜子)からの電話を受けます。
それは今から15年前の2月のことでした。
小山内瑠璃は、三角哲彦に
- 三角哲彦の姉が自分の母 小山内梢(柴咲コウ)の親友である
- 自分は今、仙台に住む高校3年生で、もうすぐ卒業するからあって欲しい
- 瑠璃という名前は「瑠璃も玻璃も照らせば光る」に由来している
などを伝えます。
その時、三角哲彦は一流企業の出世頭にまでなっており、傍らには婚約者もいたため、電話口の小山内瑠璃に対し、冷たくあしらいます。
しかし、小山内瑠璃のねばりに負けて、母親同伴であれば会う事を承諾した三角哲彦でしたが、あまりの忙しさにすっかり電話のことを忘れていました。
3月になり、ニュースを見ていた三角哲彦は、仙台ちかくで起きたトンネル内の玉突き事故の死亡者に
- 小山内梢(44)
- 小山内瑠璃(18)
の名を見つけ、慌てて姉の典子に連絡をとります。
学生時代の友人である梢に、弟の電話番号を教えたのは典子でしたが、結局、小山内瑠璃がなぜ電話をしてきたのかはわからないままになったのでした。
正木竜之介(田中圭)の起こした8年前の事件とは
緑坂ゆい(伊藤沙莉)が席を外している間に、小山内堅(大泉洋)は、7歳の娘 緑坂るりから、正木瑠璃(有村架純)の夫 正木竜之介(田中圭)の話を聞くことになります。
正木竜之介(田中圭)と瑠璃(有村架純)の結婚生活
正木竜之介(田中圭)
小山内堅より5歳年上の正木竜之介は
- 180cmの長身で、体格に恵まれ運動神経も良い
- 子どもの頃から温厚な性格
- 手先が器用で、粘り強い
- 優れた記憶力を持つ
と、優秀なだけでなく、周囲の人々からも一目置かれる存在でした。
大手工務店の社員となった正木竜之介は、先輩に連れていかれた喫煙具専門店で、奈良岡瑠璃に一目ぼれし「生涯の伴侶になるべき女性」だと確信します。
「僕がきみを外へ連れ出してやる」などと言って迫り続けた正木竜之介でしたが、奈良岡瑠璃にその気は全くありませんでした。
しかし、店をずる休みした日に、気まぐれで正木竜之介と食事をしてしまったことから、奈良岡瑠璃の気持ちは揺らぎ始めます。
「人生に退屈している自分は、正木のような男との新しい生活を望んでいるのではないのか?」
そんな思いにとらわれた奈良岡瑠璃は、正木竜之介の結婚し、正木瑠璃となったのでした。
結婚して1年半が過ぎても正木瑠璃に妊娠の兆候は見えず、人生を全て計画通りにすすめることが出来ていた正木竜之介は焦りを感じます。
「新しい命を作る」という目的のため、規則的かつ義務的になっていく夫婦の営み。
結婚4年目になると、正木竜之介は煙草をやめて、ジムに通い、風水にのっとり高田馬場へと引っ越すことを決めました。
正木瑠璃にとって子作りのイメージが「組み敷かれるレスリングのようなもの」になった頃、正木竜之介は婦人科へ行くことを提案します。
そして先に検査をすませた自分は問題がないという結果も報告するのでした。
婦人科へ行くことを了承した直後の事、正木竜之介の慕う先輩 八重樫が「ちょっと死んでみる」と書いた遺書を残して自殺をするという事件が起こります。
落ち込んでいる夫を慰めようと、はじめて自分から誘いをかけた正木瑠璃でしたが、その手は邪険に払いのけられてしまいました。
その日を境に夫婦の営みは行われなくなっただけでなく、瑠璃の舌を出すクセについて「笑うな」「みっともないから直せ」と怒りをぶつけるようになります。
出張と称して外泊を重ねていた正木竜之介でしたが、12月の半ばの頃、自宅に戻ると食卓の上に
「アグネス・ラムさんから電話がありました。今夜は戻りません」
と伝言がおかれていました。
アグネス・ラムは、何度か自宅に電話をしてきたことのある、正木竜之介の浮気相手でした。
妻が一体どこへ行ったのか全く思いつかない正木竜之介のもとに、警察から身元の問い合わせが入ります。
短い期間に身近な人間をふたりも…しかも自殺のような形で失った正木竜之介は、何もかもが馬鹿らしくなってしまいました。
アグネス・ラムの家に入り浸り、お酒とギャンブルにおぼれていった正木竜之介は、妊娠したアグネス・ラムを突き飛ばし流産させたことにより、法外な慰謝料を請求されます。
瑠璃の死後、半年もしないうちに人生に行き詰った正木竜之介が、老いた母のおかげで社会復帰できるようになるまでには、何年もかかりました。
正木竜之介(田中圭)と小沼希美
40歳になった正木竜之介(田中圭)を引き受けてくれたのは、地元の「小沼工務店」でした。
もともと能力が高く、一級建築士の資格も持っていた正木竜之介は、すぐに信頼されるようになり、20年ちかい月日が流れ、58歳になります。
「小沼工務店」は3代目の社長が後を継ぎ、小学校教員をしていた妻との間に「希美」という幼い娘がいました。
希美は赤ちゃんの頃から正木竜之介によくなつき、家族同然の付き合いをしていました。
幼稚園生になった頃、正木竜之介は希美から名前にかんする秘密の話を聞かされます。
ママのお腹にいる時に”ルリ”という名前にして欲しいとお願いしたけれど、おじいちゃんが反対して、おばあちゃんと同じ”のぞみ”という名前になったのだと…。
希美の話を聞いて、正木竜之介は「希美は赦しの子だ」と思いこみます。
この時、希美がもう一つアイスをねだったことから、結果として2時間も無断で連れ出したことになってしまい、あげく希美はお腹を壊します。
希美の母である社長夫人に謝罪しますが、58歳で独身でいる正木竜之介に対して「希美が危ないのでは?」と夫人は疑いの目を向け始めるのでした。
翌年、7歳になった小沼希美は、原因不明の高熱を出して入院します。
4日目に急激に回復をした希美は退院し、何もかもが元通りに見えましたが、正木竜之介だけは異変に気がついていました。
明らかに正木竜之介を避けるようになったのです。
希美の退院から1か月ほどたった頃、正木竜之介は希美が舌を出して笑うところを目撃してしまいます。
正木竜之介は、死んだ妻の癖を思い出すと同時に、希美や妻とは別に、かつて舌を出して笑う女子小学生を見たことがあるという既視感にとらわれます。
しかし、その小学生が誰だったのか、正木竜之介はどうしても思い出すことが出来ませんでした。
希美の学校が夏休みになった8月のある日、社長夫妻から休暇中の正木竜之介に「希美がいなくなった」と連絡が入ります。
社長夫人は、希美の行先を知っているのではと疑っている様子でしたが、何も知らない正木竜之介は「警察に届けた方が良い」と忠告します。
近所を30分ほど探した後、社長宅へと向かうと、希美が東京の芝浦にある会社のビルで保護されたとのこと。
その際、正木竜之介は社長夫人から、娘の名前を『瑠璃』ではなく、希美とつけた本当の理由を聞かされます。
小学校教師をしていた社長夫人は、希美を妊娠中に、ニュースでかつての教え子 小山内瑠璃がトンネル事故で亡くなったことを知ったと言います。
その後、胎児から瑠璃と名付けて欲しいという夢を見た夫人でしたが、周囲に相談した結果、”瑠璃”と言う名の教え子の死にショックを受けただけなのだと結論付けたとのこと。
しかし正木竜之介は、夫人の話から、自分が小学生だった小山内瑠璃に会った事があると思い出しました。
それこそが、既視感の正体でした。
正木竜之介(田中圭)と小学生時代の小山内瑠璃(菊池日菜子)の記憶
小沼工務店に再就職して、しばらくたった頃、正木竜之介(田中圭)は稲毛にある小学校の体育館の修繕工事に通った事がありました。
懐かしくどこか物悲し気なメロディーを口ずさむ少女を見かけた正木竜之介は、彼女の胸ポケットに「小山内瑠璃」の名を確認します。
正木竜之介が歌っていた歌手の名前をたずねると、小山内瑠璃は「黛ジュン」と答えた後、舌を出して笑ったのです。
その姿に、亡き妻を癖を思い出した正木竜之介でしたが、瑠璃は同級生の輪の中に逃げるように駆け出してしまったのでした。
この記憶から正木竜之介は、亡くした妻 正木瑠璃、稲毛の学校で見かけた小山内瑠璃、そして小沼希美にはつながっているのだと確信します。
しかし、その説を社長夫人に語っても、警戒されるだけで、信じてもらう事はできませんでした。
しばらくの後、ふたたび希美は行方をくらまし、今度は正木竜之介の自宅を訪れます。
希美の事を、亡き妻 正木瑠璃だと信じている正木竜之介は、その正体を見破ろうと躍起になりますが、逆に希美にやり込められ、脅迫されるような状況に陥ります。
建設業界の専門誌を取り出し、そこに掲載されている大手建設会社に電話をして欲しいと頼む希美。
それは希美が家出して向かった芝浦のビルでした。
「その会社にいるミスミアキヒコが、どこの支社に勤めているか突き止めて欲しい」
そう言う希美から正木竜之介は、ミスミアキヒコが、年齢は45歳くらい、昔からよく知っている人だと聞き出します。
希美が正木瑠璃だと確信した正木竜之介は、嫉妬にかられ我を忘れます。
瑠璃が死んだ時、持っていたバッグに入っていた離婚届の意味を知り、希美に「裏切った」と詰め寄る正木竜之介。
希美から「最初に裏切ったのはあなたのほうじゃなかった?」と反論されたことにより、間違いなく希美が妻だと証明されました。
そうして正木竜之介は、「船橋女児誘拐事件」を引き起こすことになってしまいます。
希美を連れた正木竜之介が向かっていたのは名古屋…8年前、三角哲彦(目黒蓮)は名古屋支社にいることを突き止めたからでした。
正木竜之介の協力のもと、希美は三角哲彦に電話をかけてから、名古屋へと出発していました。
しかし、110番通報を希美の母親がしたことにより、名古屋へ向かう途中、正木竜之介は誘拐犯として追われることとなります。
警察の説得にも応じず、カーチェイスまで繰り広げた正木竜之介でしたが、その途中で希美が道路に飛び出したことにより、事故に遭い死亡してしまいます。
マスコミは、正木を幼女趣味の異常者と仕立て上げ、大騒ぎになりましたが、彼は終始「自分が連れていたのは亡き妻だ」と言い張ったのだと、7歳の緑坂るりは言います。
その後、今から5~6年前に正木竜之介は拘置所内で、一言だけの遺言を残して亡くなりますが、詳細については誰も知らないままなのでした。
映画【月の満ち欠け】原作の完全ネタバレと感想
映画【月の満ち欠け】公式サイトには”佐藤正午の最高傑作と名高い純愛小説をついに実写映画化”と書かれています。
が、原作の【月の満ち欠け】は、一般的に私たちの思う”純愛”とは少し違ったおもむきがあるように感じました。
文学的な雰囲気と、1人の男性に会うためだけに何度も転生を繰り返す瑠璃の想いは、たしかに純愛なのですが、その愛の傾け方は「大人の女性が大人の男性に向けるもの」なんです。
- 正木瑠璃
- 小山内瑠璃
- 小沼希美
- 緑坂るり
と瑠璃の魂は転生を繰り返してきましたが、その間、三角哲彦(目黒蓮)は生きたまま年齢を重ねています。
ゆえに4番目の緑坂るりが三角哲彦と会った時、じいちゃんと孫くらいの年齢差があるわけです。
そこで、緑坂るりの母親で、2番目の小山内瑠璃の友人だった緑坂ゆい(伊藤沙莉)は、娘についてかなり生々しいことを言います。
まだ七歳の娘が、建設会社の部長さんを、本気で追いかけまわすんですよ。たぶん寝たがってると思う。ほっとけば、彼女はあの人と□□□だってしてしまう…
※□の部分を書くとGoogle先生に怒られるかもしれないので、ご容赦ください。
性愛文学なんて言葉もあるので、性描写がある=純愛ではない とは言いません。
でも、50歳をこえた三角哲彦が7歳の緑坂るりに「瑠璃さん、ずっと待っていたんだよ」と言って終わる【月の満ち欠け】の先には、何が待っているのか…。
魂の再会で終わるのか?
はたまた緑坂ゆいの想像通りになってしまうのか?
後者だとすると、それを”純愛”と思うには、私はまだまだ修行が足りないようです。
小山内堅(大泉洋)も、私と同じよう視点で事を見るタイプのようでした。
緑坂るりから「生まれ変わりは私だけとは限らない、小山内さんの奥さんだって愛の深さではぜんぜん負けてない」と言われた小山内堅。
その言葉から、彼は現在の交際相手である荒谷清美の娘 みずきが、ひょっとしたら小山内梢の生まれ変わりかもしれないと考え始めます。
そう考えて過去を振り返ると、つじつまが合ってしまい、小山内堅は「今までどおり、子どもとしてみずきを見ることができるのだろうか?」と不安を感じるんですよね。
それはそうだと思います。
愛した妻の生まれ変わりを、義理の娘として見ていくなんて、喜ぶより苦行じゃないでしょうか?
母親である荒谷清美と結婚したとして、かつての妻の生まれ変わりの前で、どのように今の妻を愛せばよいのか…きっとわからなくなるに違いありません。
【月の満ち欠け】に登場する、『前世を記憶する子どもたち』という本は、実在しており私も内容を知っていました。
「前世」と聞くとオカルトちっくなイメージを持つかもしれませんが、『前世を記憶する子どもたち』は読みにくいほど学術的な内容になっています。
私は前世のことなど、さっぱり覚えていなかったと思うし、この年になると、むしろ今が前世になってしまう確率がぐいぐい上がってきているので、「前世なんて、あってもなくてもどうでもいいや」と考えています。
しかし、最初に『前世を記憶する子どもたち』を知った時は、ある種のロマンを感じましたし「前世の記憶があれば、今世をよりよく生きられてお得なんじゃなかろうか」と大変に欲深い発想をしたものです。
けれど、今回【月の満ち欠け】を完読し、前世を記憶したまま生まれ変わるのは、ほとんど呪いなのではないかと考えています。
実際、思いを遂げた瑠璃は満足かもしれませんが、彼女が前世の記憶をもったまま生まれ変わったことにより、何人もの人が悲しみ、苦しみ、人生を狂わされたと言っても良いと思います。
映画の【月の満ち欠け】のキャッチコピーは「あなたにも、生まれ変わっても逢いたい人はいますか?」というものです。
おそらく私が死ぬ時には、子どもたちにはまた逢いたいと思うでしょう。
けれど、この記憶を維持したまま、生まれ変わって逢いたいか?と問われたら、答えはNOです。
私は年老いた息子たちを見送るなんて、絶対にしたくありません!
日本には「袖振り合うも他生の縁」という言葉があります。
見知らぬ人と袖が触れ合う程度のことも前世からの因縁によるという意味の言葉ですが、だとすると、放っておいても縁の深い人とは、また来世で逢えるのでしょう。
感涙のベストセラーとされる本を読んで、涙を流すどころか「呪い」とまで言う私ですが、間違いなく【月の満ち欠け】は傑作です。
その傑作がどのように映像化されるのか、今から楽しみです。