嶽本野ばら原作『ハピネス』が窪塚愛流×蒔田彩珠主演で2024年に映画化!映画公開前に原作のラストまでを、正直な感想と共にネタバレいたします。
代表作『下妻物語』から、ずっと原作者の嶽本野ばらさんは女性だと思っていました。
『ハピネス』はロリータファッションを題材にしていますが、物語は主人公の「僕」が語る男性目線の恋愛小説で、こてこての甘ったるさがなく、どこか文学的。
また、死にゆく彼女を描いているのに、むしろ「生(あるいは性)と死」について考えさせられました。
ロリータに全く興味がなくても、響くものがある作品です。
映画『ハピネス』登場人物(キャスト)
- 国木田雪夫(窪塚愛流)姉がロリータ好きなので知識がある。高1の1学期に転校し、美術部へ。現在は一人暮らし。
- 山岸由茉(蒔田彩珠)余命宣告をされ、ロリータデビュー。特にInnocent Worldが好き。
原作では登場人物たちに名前が与えられておらず、「僕」「彼女」と表現されています。
この記事では、わかりやすいように映画の名前で書いていきます。
映画『ハピネス』原作|ネタバレ・あらすじ・感想
一週間で死ぬ彼女、山岸由茉(蒔田彩珠)
「私ね、後、一週間で死んじゃうの」
『ハピネス』1ページ
国木田雪夫(窪塚愛流)は、山岸由茉(蒔田彩珠)から突然告げられます。ずっとロリータに憧れていた由茉は、もうすぐ死ぬからこそ、勇気とお金がなくて出来なかったロリータファッションデビューをする決意をしたとのこと。その日のデートには、買ったばかりのクラシカルリボンジャンパースカートを着ていました。
いつもより楽し気な様子の由茉に、雪夫は「由茉が一週間後に死ぬ」とは、とても思えません。そんな雪夫に由茉は「後でちゃんと教える」と、大好きなInnocent Worldの話をするのでした。
雪夫(窪塚愛流)と由茉の出会い
高校2年生の雪夫と由茉は、美術部で知り合いました。ほとんどの女子とは違い、いつもレースやリボンがついたソックスをはいている由茉が気になり、雪夫は声をかけてみます。雪夫の姉がBABY, THE STARS SHINE BRIGHTの大ファンだったため、少しロリータの知識があったのです。
雪夫もロリータ好きだと思い込んだ由茉は、すっかり雪夫に仲間意識を抱きます。由茉に誘われるまま新宿や原宿へ行くうちに、雪夫は彼女の勧めでMILK BOYなどを着るようになっていきました。
4か月後、初めてのキスを交わした2人は、告白をすることもなく自然と付き合うようになります。父親の転勤で高1の1学期に転校してきた雪夫でしたが、またもや父親が転勤に。雪夫だけ東京に残り、一人暮らしをするようなったため、2人はキス以上の行為にふけるようになっていきました。
由茉の持病
雪夫の部屋で行為を終えた由茉は、「1週間で死ぬ」について説明をします。由茉には生まれつき心臓に異常があったものの、これまでは普通に日常生活を送れていました。医師からも「心臓を酷使しなければ大丈夫」と言われてきましたが、突然の激痛に襲われ、由茉は倒れてしまいます。原因は心筋梗塞で、手術や治療は不可能だとされ、余命宣告をされてしまいました。
話を信じられない雪夫は混乱します。ずっと「長く生きられない気がする」と予感していた由茉は、運命を受け入れており「多少のリスクを冒しても、楽しく毎日を過ごしたい」と考えていました。そして、雪夫にも「普段通りにしてほしい」と願い出ます。
由茉が死んでしまうことを納得できない雪夫は、神様を恨むのでした。
自分の命があと1週間だと言われたら、じっとして1日でも長く生きるより、リスクを冒してもやりたいことをやると思う人のほうが多いですよね。
彼女の死を目の前にして雪夫は「(時間が)足りない」と神様を恨みます。
私たちの命も期限を保証されていません。難しいですが「いつ死ぬかわからない」という事をたまに自分に言い聞かせると、平穏な日々の価値がぐんと上がる気がしました。
発作を目の前にして
翌日、部活をさぼって、2人は原宿に向かいます。一昨日買ったばかりのロリータの服に着替た由茉は
「お買い物をする快感を一度に味わっちゃ勿体ないから、欲しいけど我慢したものも、一杯あるの」
『ロリータ』29ページ
と、Innocent Worldの直営店を訪れます。2時間もの間、店員さんとの会話や試着を楽しみ、6万円以上のお買い物をした由茉は、とても死を目前にしているとは見えないくらい、元気にはしゃいでいました。
ところが、由茉は突然の発作に襲われ、苦しみだします。呆然とする雪夫の前で、何とか薬を飲み、落ち着きを取り戻した由茉は「カッコ悪かった。先程の失態は忘れてね」とおどけます。
一方で雪夫は、役立たずな自分を責める気持ちでいっぱいになります。そんな雪夫に由茉は
「君がこうして一緒にいてくれるからこそ、私は後、数日の命だって現実に対して前向きに向かい合えているの」
『ロリータ』42ページ
と、雪夫は役に立っているし、今まで通りにして欲しいと改めて望むのでした。
雪夫の心配と怒り
翌日、由茉が学校に来ず、連絡もとれなかったため、雪夫は不安でたまらなくなります。6限目になり、由茉から放課後の誘いのメールが届いたことで、雪夫はホッとすると同時に、憤りを覚えました。
竹刀で頭を叩くような先生の授業中でしたが、雪夫は由茉に電話をかけ、彼女の体調を確かめます。あまりにも呑気な由茉に、雪夫は思わず「心配したじゃないか!」と大声を出し、泣いてしまいました。
殴られることを覚悟した雪夫でしたが、先生は「座れ」と何もなかったかのように授業を再開します。授業の後、近づいてきた先生は、次はないと脅しつつも
「自分の為ではなく、人の為に必死になれる、場所柄もわきまえず泣けるのは、悪いことじゃない。(中略)男なら、守り切れないと解っていても、最後まで守ることを放棄するなよ。必死に抵抗し、もがけ」
『ロリータ』49ページ
と言ってくれました。
ベタな展開かもしれませんが、ハピネスの中でかなり好きなシーンです。いまや、竹刀を持って暴力をちらつかせるような教師は絶滅していると思いますが、昭和生まれの私にはノスタルジー感じます。
もちろん暴力で屈服させることは良くないですが、ハピネスに登場するこの先生からは、教育に対する熱い想いが伝わってきました!
由茉の両親
放課後、由茉に会った雪夫は、怒鳴ったことを謝ります。由茉も連絡を怠った自分の非を認めました。
その日の夕飯は、由茉の家に招かれます。雪夫にとって、初の彼女の自宅訪問でした。由茉の両親は、遺された時間を娘の思い通りに過ごさせると決意しているとのこと。雪夫の家に泊まりたいという由茉についても
「生まれてきて良かったなって、このコが思える為なら、私達はどんな我慢もするつもりです」
『ロリータ』58ページ
と言うのでした。
お泊り
発作を雪夫に見られて以来、由茉は隠れて薬を飲まなくなります。薬を飲む頻度は上がっており、症状が悪化しているのは明らかでした。
由茉の両親公認でのお泊りで、雪夫の体はうまく反応をしなくなってしまいます。「している最中に死ぬのは理想的」とまで言う由茉は、通販サイトでバイアグラまで購入していました。
朝がやってきて、彼女は「学校へ行く」と言います。サボればよいという雪夫に「学校に行くのは最後になるかもしれないし、普通のことがとても大事に思えるから」と、由茉は答えます。
ところが、由茉は倒れてしまい、ちょうど迎えに来た母親と共に救急車で搬送されていきました。
大阪旅行へ
学校に行く気持ちになれず待機していた雪夫に、由茉の母親から連絡が入ります。「もう心配ない」と言う母親から、Innocent World本店へ行く旅行の決行を頼まれた雪夫は、責任の重さに耐えられず「無責任です」と叫んでしまいます。しかし、由茉の気持ちを改めて考えた雪夫は、迷いをふりきり、大阪旅行を決意します。
翌日、由茉は全身ロリータで待ち合わせ場所に現れます。雪夫もMILK BOYやh.NAOTO、HYSTERIC GLAMOURと、由茉のために精いっぱいのコーディネートをしていました。
2人分の旅行代を母親からもらっていた由茉でしたが、雪夫は「買い物以外の費用を全て自分が出す」と断ります。雪夫の決意に、由茉は甘えることにしました。
Innocent World本店へ
Innocent World本店は、胡散臭いおんぼろビルの中にありました。心臓をおさえる由茉に薬を渡そうとすると、発作ではなく気持ちを落ち着けているだけでした。2人は閉店の8時まで、3時間近くお買い物を楽しみます。翌日は、由茉が雪夫へのプレゼントとして、お揃いのネクタイをInnocent World本店で購入しました。
資生堂パーラーで1万500円のカレー
大阪を満喫し、東京へ戻った2人は銀座の資生堂パーラーへと向かいます。目的は1万500円の伊勢海老とアワビのスペシャルカレーライス。由茉はカレーが大好物でした。
由茉の死
本来であれば、自宅に帰る予定でしたが、由茉は「今夜も君と過ごしたい」と言い出します。親の許可を取り、雪夫の部屋へと着いた時、彼女はひどい発作を起こした後で、疲れ切っていました。
もうすぐ、死んでしまうんだけれど、私は誰より幸せだったって自信を持っていえる。だからね、その時が来ても悲しまないで欲しい。
『ロリータ』139ページ
自分がいかに幸せだったかを語り、彼女は眠りに落ちます。翌朝、雪夫が目覚めると、由茉は穏やかな顔で死んでいました。
映画『ハピネス』原作|ラスト結末をネタバレ
由茉(蒔田彩珠)の葬儀
由茉の死に直面した雪夫の心は、不思議と落ち着いていました。彼女の母親に連絡した後、雪夫は由茉にInnocent Worldの服を着せます。医師の確認前に遺体に触れてはいけなかったのですが、医師も注意するだけで問題にはしませんでした。
由茉は死ぬ前にドナー登録をしていたので、遺体は病院へと運ばれます。その後、「身内だけでひっそりと」という由茉の希望に沿って葬儀は行われ、彼女はお気に入りのロリータ服に身を包み、バラの花に満たされて火葬され、お骨は由茉が用意したアムールとプシュケが印刷された紅茶の空き缶に納められました。
最後の日々を自分と過ごさなければ、由茉はもう少し生きていたはず…雪夫はそう言って、由茉の母親に謝罪をします。しかし、彼女の母親は娘の人生について
「羨ましくすら、思えるんです。最後の最後まで、大好きな人の傍にいられたんですから。この世で一番大切な人に見守られて、息を引き取れたんですから」
『ロリータ』153ページ
と、後悔してないと言ってくれました。
雪夫(窪塚愛流)の心情
由茉の死から葬儀まで、ずっと落ち着いていた雪夫でしたが、家へ帰るなり、彼女の死を納得できない気持ちに襲われます。再び、斎場へと戻ってきた雪夫は、毎日たくさんの人が火葬されていることを改めて気がつかされ、生前に由茉が言っていた
「死はサマージャンボ宝くじで5等の3千円があたるのと同じくらい、特別な出来事ではない」
と理解します。神様を恨みながらも、彼女が天国にいると信じる為、雪夫は神の存在も肯定し、「この苦しみは彼女を愛したからこそのものだ」と気がついたのでした。
映画『ハピネス』原作|正直な感想
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高校生の恋愛、病気、死
ありきたりの材料に「ロリータ」というオタク要素をかけあわせてオリジナリティを出した、少女趣味な小説なのでは?
『ハピネス』を読み始めてすぐは、そんな偏見を持っていました。
また、ヒロイン役が、子供の頃からちょっと癖のある役が多い蒔田彩珠さんということで
1週間で死ぬって、嘘じゃないの?
なんて疑いも。
しかし『ハピネス』は、そんな安っぽさはなく、どこかキリスト教の宗教画をイメージさせるような作品でした(とは言え、私は宗教画のことなんて全然知らなくて、フランダースの犬のラストに出てくるルーベンスの絵を思い浮かべる程度なのですが)
そのせいか、性的な描写もちりばめられているのに、全くいやらしさを感じないまであります。それどころか、薬まで用意し、命がけで「雪夫(窪塚愛流)といつも通りする」という事を実現させようとした由茉の切実さに怖ささえ感じてしまいました。
羨ましい由茉の死に方
50歳を超え、体力に衰えを感じたり、病院のお世話になることが増えてくると、嫌でも「死」についてリアルに考えるようになります。
生きようとしても生きられない人(あるいはその家族)にとっては、とても不誠実に感じてしまうかもしれませんが、どうしても「長く生きることへの恐怖」の方が大きくなってしまい「自分の死がいつで、どんな風に訪れるのか?」と言う、答えが出ない事を考えてしまうのです。
そんなお年頃の中で読んだ『ハピネス』で、私は由茉の母親と同じように「由茉の死に方は羨ましい」と感じてしまいました。
好きなことを好きな人と、存分に楽しんで死んでいくって、ほとんどの人が出来ないですよね。遺された人々はたまったもんじゃありませんが、由茉だけを見ると、めちゃくちゃ幸せな死に方だったと思います。
幸せって、誰かの悲しみや犠牲の上になりたっているのね
仏教にも通じる「死」の考え方…でも
さきほど『ハピネス』は宗教画のイメージさせると書きましたが、「死はありきたりのもの」と主張していることから、仏教的な要素も感じられました。
仏教の教えの中に、キサー・ゴータミーという女性のお話があります。
簡単に言うと、幼くして子供を亡くし「子供を生き返らせて」と嘆き悲しむ女性に、お釈迦様が「一度も死人を出したことがない家からケシの実をもらってきたら、生き返らせてあげる」と言うのですが、そんな家は一軒もなかったと言うお話。
女性は悟りをひらきますが、真理ではあるものの、残酷なお話ですよね。子どもの死亡率が下がっている現代において、子が親より先に亡くなる逆縁は、そう簡単に納得できるものではありません。
しかし『ハピネス』では、由茉が生まれつき心臓に障害があったこともあり、両親は葛藤があるものの、娘の最後の時を娘の好きなようにさせる⇒彼氏と過ごさせる選択をします。
母親と言う立場で『ハピネス』を読んだ時、私はキサー・ゴータミーや由茉の親のようには悟れない!と強く感じました。
そんなわけで、改めて不必要に長生きしたくないなぁ…と言う想いを再確認。悟りには程遠く、エゴイストかもしれませんが、子供たちには1秒でも私より長く生きて欲しいと願ってしまうのでした。
死は当たり前のものだけど、逆縁は絶対嫌!
以上、映画『ハピネス』嶽本野ばらの原作をラスト結末までをネタバレする記事でした。
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