朝井リョウ著【正欲】が映画化されるということで原作を読んでみました。原作には「つまらない」「気持ち悪い」という感想を抱く方もいる作品です。
映画の主演は稲垣吾郎×新垣結衣と発表されており、気持ち悪いとは真逆のキャスト。そこで原作のネタバレと共に、なぜ「つまらない」「気持ち悪い」と言われるのかを確かめてみました。
正直な感想を最初に書いてしまうと
水に対する性欲を満たすために、小学生YouTuberを利用することに対しては、子どもを育てた経験がある母親として「気持ち悪い」という感情を抑えられませんでした。
【正欲】には、私たちが良く知る「フェチ」を超えた特殊な性欲を持つ人たちが登場します。例えば、新垣結衣さんが演じる桐生夏生は、水に対して性欲を覚える女性です。
体のパーツやシチュエーションに対し興奮を覚えるフェチはよく耳にしますが「水への性欲とは?」という疑問と興味で読み進めた結果
私の「気持ち悪い」は、わからないことへの恐怖から湧き出る感情だったようです。
誰にも理解されない苦しみを抱えた人々がいると言う事実を「気持ち悪い」の一言で片づけてしまうのは、あまりにもリスクが高い(⇒犯罪を増やす)もの。たとえ「共感」は出来なくても、知っておく必要性を感じました。
原作のあらすじネタバレを知った上で、映画との違いを楽しみたい人は、どうぞ最後までお読みください。
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映画【正欲】キャスト
- 寺井啓喜(稲垣吾郎)不登校の息子を持つ検事。
- 桐生夏月(新垣結衣)水への欲望により孤独を深めている。ショッピングモールの寝具店に勤務。
- 佐々木佳道(磯村勇斗)夏月の中学時代の同級生。大手食品会社勤務。
- 諸橋大也(佐藤寛太) 容姿端麗の大学生。ダンスサークル『スペード』のメンバー。
- 神戸八重子(東野絢香) 金沢八景大学1年生。学園祭実行委員企画局所属。容姿にコンプレックスがある。
原作【正欲】その他の登場人物
- 矢田部陽平(岩瀬亮) 小学校の非常勤講師。
- 寺井由美(山田真歩) 啓喜(稲垣吾郎)の妻
- 寺井泰希 啓喜の小学生の息子。不登校。
- 那須沙保里(徳永えり) 夏月(新垣結衣)にやたらとからんでくる雑貨店副店長。
- 脇元 沙保里の後輩従業員。
- 久留米よし香 金沢八景大学1年生。神戸八重子の友人。
- 桑原紗矢 金沢八景大学2年生。学園祭実行委員企画局の先輩。
- 高見優芽(坂東希) 『スペード』の代表。
- 冨吉彰良 泰希の友人。
- 冨吉奈々江 彰良の母。
- 越川秀己(宇野祥平) 啓喜(稲垣吾郎)の事務官。
- 西山修(渡辺大知) 夏月(新垣結衣)の同級生。
- 西山(広田)亜依子 夏月の同級生。
- 門脇(渡辺)かおる 夏月の同級生。
- 藤原悟 蛇口を盗み逮捕された新聞配達員。
- 桑原真輝 紗矢の8歳上の姉。WEBメディアの副編集長。
- 平野千愛 『おじ恋』プロデューサー。
- 右近一将 『らいおんキッズ』の職員。
- 田吉幸嗣 佐々木佳道の先輩社員。
【正欲】原作|結末までのネタバレあらすじ&感想
※Googleの規約によりネタバレの表現はかなり抑えてます。朝井リョウさんの世界観を知りたい方は原作の試し読みがおすすめ↓
\柴田錬三郎賞受賞/
児童ポルノの摘発|2019年7月
2019年7月、児童ポルノ容疑で、佐々木佳道(磯村勇斗)、諸橋大也佐藤寛太)、矢田部陽平が逮捕されます。3人が逮捕されたのは、子どもたちが水遊びをする公園で”パーティ”を開いていたことによるものでした。
小学校の非常勤講師をしていた矢田部陽平が、未成年との関係を持ったことから”パーティ”の存在が明らかに。
矢田部陽平の交流関係を洗い出した警察は、”パーティ”の主催者である佐々木佳道と、参加者の大学生諸橋大也を逮捕したのでした。
寺井啓喜(稲垣吾郎)の息子 泰希
横浜地方検察庁の検事寺井啓喜(稲垣吾郎)と妻由美の間には、不登校の息子泰希がいました。
すでに1年半ほど学校に行っていない泰希は、ある小学生YouTuberが
これからの時代に学校は必要ない
と主張し、不登校を続けていると知り、自らもYouTuberに憧れるようになっていきます。
由美は、泰希を応援したいと考えているようですが、多くの犯罪者を目にしてきている啓喜は、軽々しく賛同することはできませんでした。
不登校YouTuberのモデルは「ゆたぼん」でしょうか…。
無気力のまま引きこもっていた息子が、何かにやる気を見せたら応援したくなるのが母心。
でも、犯罪者の実態を目の当たりにしている啓喜(稲垣吾郎)の心配もわかります。
桐生夏月(新垣結衣)と那須沙保里
岡山駅に直結するイオンモールの寝具店に勤める桐生夏月(新垣結衣)は、休憩室でやたらと接近してくる那須沙保里の存在にうんざりしていました。
夏生の店の向かいにある雑貨屋の副店長をしている沙保里は、付き合っている彼氏と結婚するために、強く妊娠を望んでいました。
休憩室で自分の私生活を開け広げに語るだけでなく、沙保里は夏生の詮索もしてきます。
「同世代の夏生と友だちになりたい」と近寄ってきた沙保里を無下もできず、夏生は仕方なく対応していました。
神戸八重子と諸橋大也
金沢八景大学で学園祭実行委員をしている神戸八重子と、友人の久留米よし香は、ルッキズムを助長する「ミス・ミスターコンテスト」を次年度は廃止したいと考えていました。
代わりに、多様性を称える『ダイバーシティフェス』の企画を思いつきます。
世の中では、男性同士の恋愛ドラマ『おじさんだって恋したい(=おじ恋)』が人気を博しており、よし香はおじ恋の女性プロデューサーをゲストとして呼びたいと提案します。
一方、八重子は、今年度の学園祭に出演したダンスサークル『スペード』のメンバーであり、ミスターコンテストの参加者でもあった諸橋大也のことを考えていました。
神戸八重子は、兄にまつわるトラウマがあり、男性が苦手で、恋愛経験もありませんでした。
しかし、そんな八重子が唯一、怖さや気持ち悪さを感じずにすむ相手が諸橋大也だったのです。
学園祭で諸橋大也を知って以来、八重子は『スペード』のアカウントをチェックし、大也の動きを追い続けていました。
『おじさんだって恋したい(=おじ恋)』は、おっさんずラブがモデルだと思われます。
おっさんずラブのプロデューサーである貴島彩理さんが、20代の女性というところもかぶっています。
さて、【正欲】の冒頭で逮捕された大学生諸橋大也が、八重子の片思いの相手として登場しました。
男性恐怖症ともいえる八重子が、大也にだけ「怖さ」「気持ち悪さ」を感じなかったのは、大也が一般的な男性とは違う事を、八重子は本能的にかぎ分けたからだと思います。
寺井泰希と冨吉彰良との出会い
不登校児に運動を教えてくれるNPO団体『らいおんキッズ』のプログラムに参加した泰希は、冨吉彰良と仲良くなります。
家庭環境も似ていることから、母親の奈々江と由美も親しくなり、息子たちが共に不登校YouTuberの動画に傾倒していることがわかりました。
その話を聞いた若い男性職員 右近一将は「動画配信に興味があるなら、子どもたちにやらせてみても損はない」と言います。
個人情報の流出などを心配する啓喜(稲垣吾郎)でしたが、母親2人は「自分も不登校だったことがある」と言う右近一将を「先生」と呼び、啓喜の意見は流されていくのでした。
夏月(新垣結衣)と同級生の再会
ある日、夏月(新垣結衣)は、職場の寝具店で、かつての同級生西山修と亜依子に声をかけられます。
同級生同士で結婚した修と亜依子は、莉々亜という名の赤ん坊を連れていました。
上の子どもは、門脇(渡辺)かおるに預けているとのこと。
また、別の同級生(穂波辰郎と桂真央)の結婚に際し、同窓会を開くという理由で、夏生は修から連絡先を聞かれます。
できれば教えたくない夏生でしたが、修から「佐々木佳道」の名前が出たことで、夏生の気持ちは変わりました。
「佐々木佳道」は、夏生にとって水にまつわる思い出がある存在だったのです。
そして、夏生は「水」に関する動画を巡回するたびに目にする「SATORU FUJIWARA」という人物を佐々木佳道ではないか?と考えていました。
諸橋大也と高見優芽
桑原紗矢に認められ、八重子とよし香が発案した『ダイバーシティフェス』が採用されます。
『スペード』の代表高見優芽との打ち合わせの席に諸橋大也がいたことは、八重子にとって嬉しい誤算でした。
しかし、『スペード』の公式SNSに、大也が映りこんでいる投稿にばかりリクエストをする人物がいるという話題になり、八重子は焦ってしまいます。
大也は、『ダイバーシティフェス』の企画に沿うだけのために、無理やり違うジャンルを踊らされることこそ、ダイバーシティではないと言い切ります。
そのリクエストをしているのは八重子でした。
藤原悟と動機
啓喜(稲垣吾郎)は、事務官の越川秀己とともに、横浜で起きた蛇口盗難事件の担当をしていました。
過去の類似事件も調査した越川は、藤原悟という45歳の男が岡山県で起こした蛇口盗難について語ります。
横浜で起きた事件が明らかに「金属転売目的」であるのに対し、藤原悟は蛇口を盗んだ動機を
水を出しっぱなしにするのがうれしかった
【正欲】85ページより
と供述しており、越川は異常性癖を疑うのでした。
ここで「SATORU FUJIWARA」というハンドルネームが、蛇口盗難で逮捕された藤原悟からとられている可能性が高くなりました。
越川の考察を、啓喜(稲垣吾郎)は完全否定するものの、自宅に帰って由美から
視聴者からのリクエストで風船の早割をするから、風船を膨らませて欲しい
と言われ、異常性癖の話が頭をよぎります。
実際、世の中には「Balloon fetishism」という嗜好が存在しているようです。
夏月(新垣結衣)の欲と泰希たちのチェンネル
夏月が参加するなら同窓会に行く
佐々木佳道の言葉を、西山修から聞いた夏生は「SATORU FUJIWARA」のことを考えながら、最近見つけた動画チェンネルをチェックします。
泰希と彰良という小学生が運営するそのチェンネルには、夏月のような特殊な欲望を持つ人々からのリクエストがあふれていました。
リクエストの中に夏生は「SATORU FUJIWARA」を見つけます。
「SATORU FUJIWARA」のリクエストは、やはり水を使った企画でした。
神戸八重子のトラウマ
『おじ恋』プロデューサー平野千愛を『ダイバーシティフェス』のゲストで呼べることが決まります。
紗矢の8歳上の姉で、WEBメディアの副編集長をしている真輝からのアドバイスもあり、テーマは八重子の思いついた「繋がり」になりました。
よし香や紗矢たちの繋がりが深まっていく中で、八重子は兄や男性たちに感じてしまう「気持ち悪さ」について打ち明けてみたくなります。
高校生だった頃、同級生との会話をきっかけに、興味本位で八重子は8歳年上の兄の部屋を物色してしまいます。
その時、八重子は兄のパソコンに「素人JKの妹」というタイトルがついた動画をみてしまったのです。
以来、八重子は兄だけでなく、あらゆる男性に対し、気持ち悪さと怖さを感じるようになってしまいました。
そんな中で、唯一出会うことができた怖くない異性が諸橋大也だったのです。
佐々木佳道との再会と「SATORU FUJIWARA」
同窓会の日、佐々木佳道と再会した夏生はそろって3次会には行かず、川へと向かい、学生時代の思い出話を始めます。
藤原悟が起こした蛇口盗難事件の記事について、西山修が発表したことをきっかけに、担任の先生が
校舎裏の水飲み場が撤去されるため立ち入り禁止になる
と言った事で、夏生と佳道は繋がったのです。
撤去される前に蛇口を壊して、水を噴出させてみたい
そんな思いで水飲み場に向かうと、そこにはすでに佳道がいました。
お互いに会話もしたことがない同級生でしたが、頷き合っただけで2人は互いが同類だとわかります。
そして、思い切り蛇口を蹴飛ばし、水を噴出させたのでした。
その後、2人は特別仲良くなることもないまま、佳道は転校してしまいます。
以来、夏生と佳道はそれぞれ水への欲望を秘め、孤独に生きてきたのです。
佳道との会話で、2人はお互いを「SATORU FUJIWARA」だと思い込んでいたことがわかり、驚くのでした。
ダイバーシティフェスの成功と八重子の失恋
ダイバーシティフェスは大成功をおさめ、打ち上げのパーティーが行われます。
その席で、八重子は
諸橋大也はマイノリティなのではないか?
と高見優芽から聞かされます。
その理由は、男子ならみんなが知っているはずの「例のプール」を、大也が知らなかったというものでした。
そして、優芽は「自分の代わりに大也を気にかけてあげて欲しい」と頼みます。
もし大也がマイノリティであれば、失恋したことになりますが、優芽から大也を救うバトンを渡されたと感じた八重子は、むしろ喜びや希望を感じるのでした。
那須沙保里の言いがかり
ある日、夏生は那須沙保里から「妊娠しているのか?」と問いただされます。
夏生には沙保里が何を言っているのか、さっぱりわかりません。
怒り続ける沙保里の話から、どうやら何者かが、夏生が妊娠したと噂話を流したのだと察します。
最後には「死ね」と吐き捨てて沙保里が去った後、沙保里と同じ店で働いている脇元が噂を流したことに夏生は気がつきました。
脇元からの悪意と沙保里の言いがかりにより夏生は、自分がずっと死にたかったことを自覚してしまいます。
アクセルを踏み込もうと思った瞬間、夏生の視界に佐々木佳道の姿が映りました。
親の死
佳道が泊まっているホテルにやってきた夏生は、佳道も死のうとしていたことを察します。
ホテルの部屋には、トイレ用洗剤と入浴剤、ガムテープなどが揃っていました。
親を10月に交通事故で亡くしたという佳道は、親が自分の特殊性癖に気がつくことなく死んだことにホッとすると同時に、自分と言う存在をこの世に引き止めておくものがなくなったと言います。
同じような思いを抱えていた夏生と佳道は、互いの中に自分を見るような気持になるのでした。
夏月(新垣結衣)と佳道の結婚と約束
死のうとしているタイミングで再会した夏月(新垣結衣)と佳道は、まったく恋愛感情がないまま結婚をし、同居を始めていました。
生活するための約束事の他に
- 結婚の仕組み(お互いの特殊性癖)を決して他言しない
- 自殺は禁止
と言った取り決めを文章にして交わします。
2人は友人とも呼べない他人の関係でしたが、この結婚は世界で生きていくために必要な協力でした。
家族であっても、100%全部をわかりあえることはできません。
それでも、自分を必要としている存在がいるということは、生きる意味になります。
「お互いの特殊性癖を知っている」というだけの間柄である夏生と佳道は「友達でもない関係」だと思っていますが、むしろもっと深く名前のつけられない何かで繋がっている気がします。
諸橋大也と「SATORU FUJIWARA」の正体
「優芽さんから、諸橋くんをよろしくと言われた」
そう言って神戸八重子が近づいてきた時、諸橋大也はうんざりした気持ちになります。
「水」に対して欲望を抱く特殊性癖を持っている諸橋大也にとって、異性からの好意は喜ぶようなものではありませんでした。
なまじ容姿が整っていることから、諸橋大也は異性だけでなく同性からも注目されてしまいます。
人気者である優芽が大也のことを「女の子に興味がないのかな」とこぼした時から、大也はみんなから疑惑の目を向けられるようになっていたのです。
大也にとって優芽や八重子の好意は迷惑でしかありませんでした。
幼い頃から水が好きだった大也は、そんな自分の事をずっと「気持ち悪い」と思ってきました。
が、SNSに触れたことで、世の中には自分以外にも特殊な欲望を持っている人がたくさんいると知り、ホッとします。
やがて大也は、藤原悟の記事をきっかけに、ハンドルネームを「SATORU FUJIWARA」にして、交流相手を探すようになっていました。
「古波瀬」からの接触
1か月ほど前、大也は「古波瀬」と名乗る人物からダイレクトメールを受け取っていました。
「古波瀬」とは、藤原悟が蛇口の窃盗事件を起こした時の記事にのっていた地名であることに大也はすぐに気がつきます。
大也は「古波瀬」とやり取りをするようになり、親近感を高めていきます。
こうして大也たちは、YouTube内にいる10代の動画配信者に次々とリクエストを送るようになっていきました。
そんな中、大也にとって絶望的な出来事が起こります。
最もリクエストに応えてくれていた不登校の小学生男児が運営するチャンネルのアカウントが停止されてしまったのです。
諸橋大也の苦悩そのものには共感するところがあるのですが、やはり何も知らない小学生を利用していることには嫌悪感を覚えてしまいました。
「もしも自分の息子が欲望の対象になっていたら」という想像が恐怖に繋がってしまうからだと思います。
大也、夏生、佳道たち自身も全員が自分たちの事を「気持ち悪い」と思っています。
そうは思いながらも欲望を満たすことに逆らえないのは、性欲がやはり本能だからなんでしょうね…。
ただ、彼らの欲望は本来「水」だけに向けられています。
なので「男児」という要素を切り離して、欲望を満たせる方法を考えれば、事件は起きなかったかもしれません。
YouTubeアカウントの停止理由
泰希たちのYouTubeアカウントが突然停止されたことについて、啓喜(稲垣吾郎)は越川に漏らします。
すると越川は、未成年者を守るための規制により、アカウントが停止されたり、広告が外されたりする可能性があることを調べてきました。
対応策はコメント欄を閉じることでしたが、泰希にとってコメント欄はモチベーションをあげるものだったので、由美はがっかりした様子を見せます。
しかし、啓喜は「これを機にYouTubeをやめてくれれば」と思っていました。
夏月(新垣結衣)の提案
泰希たちのチャンネルは復活したものの、コメント欄は閉じられることになります。
考えた結果、夏月(新垣結衣)と佳道は観たい動画を自分たちで撮影してみることに決めました。
撮影場所は最寄りの蒔田駅ちかくにある清水ヶ丘公園に決めます。
人がいなくなるのを待って、協力し合いながら動画を撮った2人は、救われたような気持になりました。
この世界で生きていきたいと実感した2人は、もっと同じような人たちと繋がりたいと考えます。
それは、誰かを救うためではなく、自分を救い生き続けるための方法でした。
「古波瀬」の誘いと八重子への殺意
諸橋大也は「古波瀬」から、水などのマイナーな指向を持つ人たちが集うコミュニティに誘われ、参加を決めます。
その日程は、ゼミ合宿とかぶっていましたが、もともと合宿は苦手だったので参加するつもりはありませんでした。
ところが、前日になって大也は神戸八重子から半強制的に合宿に参加しなければならないような頼みごとをされてしまいます。
さも大也を理解しているかのように振舞う八重子に、大也は殺意を覚えるのでした。
映画【正欲】原作の結末までをネタバレ|ラストはどうなる?
※ブログ記事の大量コピーが増えています。コピー記事を見つけた場合、何らかの対応をさせていただきます。
八重子が大也にした頼み事とは、合宿で必要になるケーブルをあずけることでした。
頼み事と言うか、大也にしてみたら脅迫に近かったでしょうね。
優芽の話を信じ切っている八重子は、大也を勝手に同性愛者だと思い込み、自分を理解者に仕立て上げようとします。
八重子の策略を無視することに決めた大也でしたが、合宿当日に玄関を出ると、そこには八重子の姿がありました。
善意の押し付けをする八重子の方が、特殊性癖よりずっと気持ち悪い!と思ってしまいました。
これではストーカーと同じです…。
と言っても、八重子は大也のことを本気で気にかけているんですよね。
だからこそ、ある意味たちが悪い。
「気持ちがわかる」と言う八重子に対し、大也は本音をぶつけます。
大也にしてみれば、自分の抱える欲求は八重子の言う”多様性”ではとても理解できるものではないし、理解して欲しいとも思っていなかったのです。
「放っておいてくれ」と拒否する大也に、八重子は「話さなきゃわからない」と反論をはじめます。
この反論で、八重子の気持ち悪さは激減します。
・規制された⇒誰かを一方的に消費した結果ではないのか?
・誰もが満たせない欲望と折り合いをつけている⇒特殊性癖を持つ人たちだけが特別ではない
など「確かに!」と思わせる反論をするんです。
不幸を言い訳に逃げたくないと言い切った八重子には、思わず共感してしまいました。
本音をぶつけあった大也と八重子は、機会を改めて話しをする約束します。
こうして大也は佳道が主催する”パーティ”へと向かうこととなりました。
佳道と大也が逮捕されることになった理由
慎重に開催されたはずの”パーティ”で、佳道と大也が逮捕されることになったのは、
- 「古波瀬」こと矢田部陽平は「水」だけでなく児童そのものにも興味がある人物だった
- 夏月(新垣結衣)が急に出勤することになり”パーティ”に参加できなかった
- 佳道の会社の同僚田吉と豊橋が家族連れで公園に来ていた
これらの不運が重なったからとしか言いようがありません。
矢田部陽平は小学校の非常勤講師をしている24歳なのですが、未成年者と関係を持って逮捕されます。
警察は矢田部陽平を捜査する中で、佳道と大也の存在を知ることになりました。
”パーティ”の日、佳道は家族で清水ヶ丘公園へ遊びにきていた田吉たちと鉢合わせてしまっていたんです。
啓喜(稲垣吾郎)が行った取り調べの中で、田吉は「とても友達同士とは思えない男3人が、水鉄砲などで遊んでいる姿は不気味だった」と証言しています。
もともと田吉は佳道のことを好きではなかった上に、自分たちの息子が押収された写真に写っていたことで、嬉々として佳道を糾弾しました。
佳道と夏生は結婚式もしていなかったため、田吉は偽装結婚ではないかと疑っていた部分もあったんですね。
もしも”パーティ”に夏生が参加していたら、田吉の印象は全く違う物になっていたかもしれません。
繋がり続ける夏月(新垣結衣)と佳道
結局、啓喜(稲垣吾郎)の取り調べに対し、佳道と大也が本当に関心を持っていたのは児童ではなく水だと説明することはありませんでした。
夏月(新垣結衣)も、佳道との約束を守り、ただ「いなくならないからと夫に伝えて下さい」としか言いません。
その態度は、長らく検事をしてきた啓喜にとって理解しがたいものでした。
通常、夫が性犯罪で逮捕された時、多くの女性は夫に嫌悪感を示すそうです。
子どもも家もない佳道と夏月が、このような事件の後でも繋がり続けようとしているのに対し、由美や泰希から拒否されている啓喜の存在が何とも皮肉です。
人は基本的に共感で強く繋がっていきます。
啓喜は決して意識的に家族をないがしろにしようとしたわけではありませんが、由美や泰希にとって啓喜は「わかってくれない人」だったという事です。
藤原悟ふたたび
大也の逮捕以来、自宅に引きこもり続けていた八重子でしたが、補講のために大学へ行かなくてはならなくなります。
その日、ネットでは逮捕歴があり生活保護を受けていた高齢者が車を公園に突っ込んだと”無敵の人”の話題で持ちきりでした。
”無敵の人”の名は藤原悟で、動機は「社会に恨みがあり、水飲み場を爆発させたかった」というものでした。
【正欲】感想まとめ
世界では同性婚が法的に認められる国も増え、「おっさんずラブ」のような作品を代表に同性の恋愛は特に珍しいものではなくなりました。
昔は差別の対象となっていたものが、特別視されることなく受け入れられていくのは、情報の広がるスピードが速くなっているおかげだと思います。
【正欲】には
共感を呼ぶ傑作か? 目を背けたくなる問題作か?
というキャッチコピーで2021年に発売されていますが、映画化の影響も考えると、10年もしたら「水」などの人以外を対象とした性欲も、隠すようなものではなくなっているかもしれませんね。
私個人のざっくりとした感想は
え?別に水が好きでもよくない?
相手を尊重できる人だったら、それだけで「気持ち悪い」とは思わないはず。
それより私は別の部分にムカついたよ。
こんな感じでした。
自分の性癖を特別視し、いわゆるノーマルな人たちを社会とひとくくりにまとめたあげく「どうせあいつらには、わかってもらえない」と拒絶する態度をとられたら、そりゃムカつきますよ。
夏生、佳道、大也の3人とも、自分から周囲の人を拒絶するような態度をした結果、孤独になっているのに、「水が好きだから」と特殊性癖のせいにするのは「なんか違う~!」と、ラスト近くの八重子みたいな気持ちになってしまいました。
さて、Google先生に怒られるので、あらすじには書かなかったのですが、【正欲】の中で夏生と佳道が「シミュレーション交渉」を行う場面があります。
何これ
私いま、死んだカエルみたいじゃない?
これが、皆のしていることなの?
【正欲】322ページ
滑稽な表現ですが、このシミュレーションを行う事で、夏生たちは「みんな」も実は不安や怖さを抱えていると実感する大事なシーンです。
このシーンは卑猥さを感じさせずに描いて欲しいのですが…どうなるでしょう。
期待と不安が半々です。
いわゆる「性的搾取」は許されてはいけませんが、性=悪ではありません。
これを悪としたら、人類は滅びてしまいます。
難しいテーマを映像化することになりますが、年齢制限がない形で公開できるような映画になることを願います。