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東野圭吾原作『クスノキの番人』結末ネタバレ感想|登場人物&相関図あり

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東野圭吾 クスノキの番人 結末 ネタバレ 感想

東野圭吾さんの『クスノキの番人』が文庫化される広告を見て「もしや映画化する可能性あり?」と思い、原作を読んでみました。

『クスノキの番人』は、ミステリー作家である東野圭吾さんが「人を生かす話を書きたくなる」と、描いた作品です。

たしかに『クスノキの番人』では、死人は出てくるものの、誰も殺されることはありません。

しかしながら、ミステリーの要素はたっぷり入っており、ラストには、まさかの結末も用意されています。

そんな『クスノキの番人』には、名言と称されるほど心に響く言葉が随所にちりばめられています。

東野圭吾さんが長くベストセラー作家でいる理由は、ミステリーとして面白いだけでなく、私たちに人と人との絆や、複雑な感情も伝えてくれるからだと、個人的に思ってきました。

『クスノキの番人』は、中学生~高校生が読書感想文を書く時にもおすすめの本です。

今回は、ラスト結末までのネタバレと共に、私の感想も書いています。

また、複雑にからみあう人間関係も相関図としてまとめてみたので、参考にしてみてください。

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『クスノキの番人』登場人物&相関図

クスノキの番人 相関図
  • 直井玲斗 クスノキの番人。複雑な家庭環境に育つ。
  • 柳澤千舟 玲斗の伯母。ヤナッツコーポレーション顧問。
  • 柳澤宗一(旧姓直井)千舟の父親。
  • 直井美千恵 玲斗の母親で、千舟とは異母姉妹。
  • 直井富美 玲斗の祖母。78歳。
  • 佐治寿明 クスノキに祈念に通っている
  • 佐治優美 佐治寿明の娘。父親の浮気を疑っている。
  • 佐治喜久夫 寿明の兄。らいむ園に入所していた。
  • 柳澤将和 ヤナッツコーポレーション代表取締役社長。千舟のハトコ。
  • 柳澤勝重 ヤナッツコーポレーション専務。千舟のハトコ。
  • 岩本義則 玲斗の前に現れた弁護士。
  • 大場荘貴 大手和菓子メーカー『たくみや本舗』の跡継ぎ候補。
  • 福田守男 『たくみや本舗』の常務取締役。
  • 大場藤一郎 荘貴の父親。
  • 飯倉孝吉 去年クスノキで祈念をした老人。
  • 桑原義彦 『ホテル柳澤』支配人。
  • 津島秀次 代々柳澤家と付き合いのある家系。足が不自由。
  • 岡崎実奈子 ピアノ講師。

東野圭吾原作『クスノキの番人』ネタバレ感想

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直井玲斗がクスノキの番人になった経緯

「その木に祈れば、願いが叶う」

そんな言い伝えのあるクスノキの番人をつとめることとなった直井玲斗

番人になる前、玲斗は『トヨダ工機』に勤務していましたが、社長から不当解雇されてしまいます。

後輩から、社長があくどい方法で、高額な機械を安く手に入れたと聞いた玲斗は、退職金代わりだとばかりに、機械を盗み出してやろうと倉庫に忍び込みます。

ところが、玲斗は警察に捕まり、起訴を待つ身となってしまいました。

唯一の肉親である祖母富美に連絡をした後、刑務所行きを覚悟していた玲斗の前に、岩本義則という弁護士がある人物からの伝言をもって現れます。

「自由になりたければ、岩本弁護士に全てをまかせること。釈放されたら命じたいことがある」

匿名の依頼人からの伝言に危険を感じつつも、玲斗は賭けに出ることにしました。

すんなりと釈放された玲斗は、岩本弁護士に高級ホテルへと連れていかれます。

そこで待っていたのは、柳澤千舟と名乗る60歳くらいの女性でした。

千舟は、自分が玲斗の伯母だと説明し、一枚の写真を見せてきます。

その写真には、20代前半の千舟、30代半ばの祖母富美、小学生の母美千恵、そして祖父直井宗一が写っていました。

直井宗一は千舟の父でもあり、玲斗の母美千恵とは異母姉妹だとのこと。

高校教師をしていた直井宗一は、教え子だった富美と22歳差で再婚したと聞かされて、玲斗は驚きます。

柳澤家の血を引く玲斗の不祥事を、当主である千舟に連絡したのは富美であり、それは柳澤家のルールでもありました。

そして、千舟が弁護士費用と引き換えに命じたことこそ『クスノキの番人』になることだったのです。

『クスノキの番人』の役目

クスノキ 月郷神社

『クスノキの番人』とは何なのか?

詳細な説明はないまま、月郷神社の社務所で番人の仕事が始まります。

月郷神社には、名ばかりの境内があるものの、本当に守るべきは、その奥にあるクスノキでした。

いつの頃からか、内部に大きな空洞をもつ月郷神社のクスノキには

「中に入って願掛けすると、願いが叶う」

という伝説が広まり、パワースポットとして有名な存在に。

玲斗は、良からぬ人々のいたずらなどからクスノキを守るために、常駐で管理をすることを任されます。

また、クスノキの番人は、単なる管理人以上に大切な夜の仕事クスノキに祈念に訪れた人の対応をしなくてはなりませんでした。

とは言え、玲斗が実際に行っているのは、予約の管理や祈念をする人にロウソクなどを渡し、きちんと火を消すように注意することくらいのもの。

クスノキの中で何が行われているのかを探ることなど、当然禁止されており、玲斗は何も知らないまま番人の仕事を続けていました。

佐治優美との出会い

ある日の事、玲斗が掃除をしていると、佐治優美と名乗る女性から、前日の夜に祈念を行った佐治寿明が何を祈ったかを聞かれます。

寿明の娘だという優美は、父親の浮気を疑って、尾行してきたとのこと。

玲斗から有益な情報を得られなかった優美は、祈念をしている寿明の様子を見るため、夜にも月郷神社へやってきます。

千舟に知られたら叱られると思った玲斗が追い返そうとするものの、優美はもちろん帰りません。

すると、クスノキの中から寿明の鼻歌が、途切れ途切れに聞こえてきました。

祈念の予約スケジュールを確認したところ、寿明は母親(優美にとっては祖母)が認知症で施設に入った半年前くらい前から、月に1~2度祈念に来ていることがわかります。

しかし、祈念とは別に、見知らぬマンションに出入りしている寿明を見たことがある優美は、父親の浮気と祈念の関わりがさっぱりわかりません。

そして、事情を知ってしまった玲斗は、半ば強引に優美に協力を求められてしまいました。

直井玲斗の生い立ち

小学校低学年の頃、玲斗の母美智恵が乳がんで亡くなって以来、玲斗を育ててきてくれたのは祖母の富美でした。

家計のために水商売をしていた美智恵の死後、急激に家計は苦しくなります。

また、死んだと聞かされていた父親は、美智恵のお客さんで妻子ある人だったことを、玲斗は中3の時に富美から聞かされました。

またその父親も玲斗が幼い頃に死んでおり、富美は素性も知らないとのこと。

以来、玲斗は自分が孤児だと思うことにし、早く自立をしようと考えます。

手に職をつけるためにと進んだ工業高校を卒業後、玲斗は食品製造会社へ勤めはじめます。

大変ながらもやりがいを感じながら働いていた玲斗でしたが、会社で起きた異物混入事件の責任を押しつけられ、理不尽な人事異動をさせられます。

そんな時、玲斗は高校の同級生で、現在はクラブの黒服をしている佐々木に出会いました。

佐々木の羽振りの良さと、母親のしていた水商売への興味から、玲斗は会社を辞めて黒服の仕事を始めます。

ところが、玲斗はホステスに口説かれ「店のホステスには手を出してはいけない」というルールを破ってしまいます。

その事がバレたことにより、連帯責任をおった佐々木は丸坊主に。

また水商売に対するプロ意識のなさを佐々木から指摘された玲斗は、クビになった後、しばらく何もせずに暮らしていました。

貯金が底をつき、社員寮付きの求人を出していた『トヨダ工機』で働きだしたものの、今度は不当解雇されてしまい、現在に至るのでした。

のっけから盗みを働いて逮捕されていた直井玲斗。

やさぐれ男かと思いきや、根は悪い人間ではありません。

祖母のために自立しようと思う優しいところもありますし、佐々木からの指摘に言い返すことも出来ない自分に情けなさを感じています。

人間どんなに真面目に生きようと思っていても、不運や不遇が続くと投げやりになってしまうことはあるものです。

でも、他人から見たら、玲斗は決して良い人間には見えないでしょう。

にもかかわらず『クスノキの番人』を、なぜ千舟は玲斗に任せることにしたのか?

私だったら、異母姉妹の産んだ子ども(しかも疎遠)を盲目的に信じて、大切なお役目を任せることはできません。

クスノキ祈念と月

千舟から完全にクスノキの番人を任されるようになって2週間、玲斗は何十年分もある『クスノキ祈念記録』をパソコン入力するように頼まれます。

その際、祈念の予約が集中する時期があることに気がついた玲斗は、千舟から祈念の効果が最も高まるのが新月と満月の夜だと聞かされるのでした。

また、祈願ではなく祈念と呼ぶ理由と、実際に祈念とは何をしているのかを玲斗はたずねます。

けれど千舟は、言葉で話しても信じられないし、いつかわかる日が来るとしか答えてくれませんでした。

大場荘貴と祈念

夜になり、大手和菓子メーカー『たくみや本舗』の常務取締役福田守男に連れられて、金髪の青年大場荘貴がやってきました。

全く乗り気ではなさそうな大場荘貴がクスノキの中に入っていくと、福田は

「荘貴の付き添いをさせてくれれば、祈念について知っていることを教える」

と玲斗に取引を持ちかけてきます。

しかし、千舟からクスノキの番人は信用が第一だと釘を刺されていた玲斗は、福田の申し出を断ります。

祈念に執着する福田の様子に、祈念はただの儀式ではなく、大きなものを得られるのだと玲斗は確信に近いものを感じました。

ところが、当の荘貴は早々に祈念を切り上げ「俺なんかに無理に決まっている」と投げやりな態度で出てきてしまい、玲斗はその言葉がどういう意味なのか疑問に思うのでした。

佐治喜久夫

『クスノキ祈念記録』をパソコンに入力していた玲斗は、5年前向坂春夫の紹介で佐治喜久夫という人物が祈念に来ていたことに気がつきます。

優美に連絡したところ、佐治喜久夫は寿明の兄だとわかります。

佐治家では、喜久夫について語ることはタブーになっており、喜久夫に関することはほとんどわかりません。

住所が『らいむ園』になっていたことなどから、喜久夫は50代という若さで介護施設に入っており、すでに亡くなっているだろうと推測されます。

女性と密会する寿明の現場写真撮影に成功した優美は、そちらの方が気がかりということで、喜久夫のことは後回しにすることに。

父親への不信感により、祈念の目的が母親の死なのではないか?とさえ想像しています。

どうしても祈念の内容を確かめたい優美は、クスノキに盗聴器を仕掛ける計画を玲斗に打ち明けるのでした。

祈念で人の死は叶うのか?

月郷神社の社務所にはお風呂がなかったため、玲斗は銭湯に通っていました。

その銭湯で玲斗は、去年クスノキで祈念をした老人飯倉孝吉に話しかけられます。

まだクスノキの祈念についてよく理解していない様子の玲斗に、飯倉老人も

「番人を続けていれば、いずれわかる」

と笑うばかり。

そんな飯倉に玲斗は、クスノキに人の死を願うという話を聞いたことがないか?とたずねます。

飯倉は、かつてはそういう祈念もあったらしいとだけ答え、千舟に叱られると湯船から出て行ってしまいました。

クスノキの番人 ネタバレ
実業之日本社より

クスノキの番人の公式ページには、祈念のルールとして

  • 新月と満月の夜しか祈念できない
  • 祈念の内容は極秘
  • 誰かの死を願うこともできる
  • 願いが叶うとは限らない

と書かれています。

ここまでで、玲斗も同じ情報を得たことになりますが、祈念とは何なのか?については、私たちもさっぱりわかりません。

ところで、私たちはよく幽霊を怖がりますが、実はお墓よりもずっと神社の方が怖いというのは、オカルト好きなら有名なお話になります。

お墓にいるのは元人間ですが、神社にいるのは神様だからです。

また、神様に何かを願う時には必ず相応の代償が必要とも言われています。

日本には名もなき神社がたくさんあり、そこには恐ろしい神様が祀られていることもあります。

月郷神社は賽銭箱もない謎の神社で、その由来をわからず訪れる人がたくさんいるとのこと。

ネットで有名なパワースポットだからというだけで、誰かの不幸を願うようなことをしたら、どんな代償を支払うことになるのか…想像すると怖いですね。

柳澤千舟の生い立ち

柳澤家の親戚に会うにあたり、玲斗は千舟自身の生い立ちについて聞くことになります。

大地主で林業を営んでいた柳澤家は、千舟の祖父彦次郎の代から、建築や不動産で事業を拡大。

彦次郎と妻靖代の間に男児が生まれなかったことから、彦次郎の学友の息子直井宗一を婿養子とし、長女恒子と結婚させます。

公務員一家の次男坊である直井宗一は、当人も高校教師をしており、家柄も申し分がありませんでした。

宗一の間に生まれた子供は千舟ひとりという状況で、病弱だった母靖代が亡くなります。

以降、宗一は柳澤家の跡取りは千舟と言い聞かせ、自身は出来るだけ目立たないように暮らしていました。

数年が経ち、千舟は宗一から22歳年下の教え子富美と再婚を考えているが、千舟が嫌ならやめると聞かされます。

また再婚するとしたら、旧姓である直井に戻し、柳澤家を出ていくとのこと。

千舟はショックをうけたものの、父親の幸せを優先し、結婚に賛成しました。

柳澤家にのこった千舟は、跡継ぎになる覚悟をし、大学では法学部を専攻します。

一方、宗一と富美の間には子ども(美千恵)も生まれ、千舟と宗一の関わりはどんどん希薄なものになっていきました。

祖父彦次郎が亡くなり、靖代から柳澤家の事業だけでなく、クスノキの番人の跡継ぎにもなって欲しと千舟は頼まれます。

仕事の忙しさも手伝い、千舟が宗一や異母姉妹である美千恵に会う機会は、数年に一度となっていました。

千舟は柳澤家の当主とクスノキの番人としての使命を優先しているうちに、結婚することなく40代半ばを迎えます。

宗一が食道がんになったことで、千舟は疎遠だった父親の家族の実態を目にする事に。

一家の暮らしは、年金と美千恵が家電量販店と銀座のホステスをすることで賄われていました。

治療にかかるお金は全て千舟が負担をすることにしたものの、宗一は回復することなく亡くなります。

宗一の葬儀が終わり、次に富美と美千恵に会ったのは、3周忌のことでした。

美千恵が玲斗を生んだいきさつ

3周忌に行った千舟は赤ん坊を抱いている美千恵を見て驚きます。

相手は銀座のお店にくる48歳の実業家で、妻子のある身だとのこと。

富美が気がついた時には妊娠4か月だった上に、美千恵が産みたいと言い張ったんだとか。

相手の男は、家庭を捨てる気もないし、認知もしないが、産むなら金銭的援助はするし子どもは可愛がると約束したと聞いた千舟は、苛立ち呆れます。

詰問する千舟に、美千恵は「迷惑をかけたくないから、縁を切ろうと思っている」と言います。

美千恵が内心「関係ないから放っておいてくれ」と考えているのだと察した千舟は、それ以来、富美や美千恵との関係をほとんど持たなくなりました。

美千恵の死

8年の時が過ぎた頃、千舟は富美から、美千恵が乳がんで亡くなったと連絡を受けます。

可愛がると約束したはずの玲斗の父親は、3年もしないうちに金銭的援助もしなくなり、美千恵は富美の協力を得ながら、玲斗を養い続けていました。

そんな生活の中で、美千恵は急激に痩せ始めます。

「ダイエットだ」と主張していた美千恵でしたが、富美によれば、水商売をする上で武器となる胸を切りたくなかったんだろうとのこと。

はっきり乳がんだと分かった時には、すでに手遅れだったと言います。

千舟は8歳になった玲斗を見て、もう会う事はないだろうと思ったのでした。

柳澤家の現状と千舟の立場

柳澤家のために人生をかけてきた千舟ですが、現在の柳澤家は「ヤナッツコーポレーショングループ」へと成長し、その実権は千舟のハトコである柳澤将和勝重が握っていました。

実質引退し「顧問」という肩書を与えられていた千舟でしたが、原点となった『ホテル柳澤』を閉鎖しようとしている将和たちに意見をするべく、柳澤グループ主催のパーティにやってきます。

その席で、玲斗は『月野神社 社務所管理主任』と書かれた名刺を千舟から渡され、親族に紹介をされました。

「クスノキは柳澤家の宝だ」と言う将和は、玲斗に将来の展望を問うてきます。

普段思っていることを吐き出した玲斗でしたが、将和から屈辱でありながらも的を射た指摘をされてしまいます。

へこむ玲斗でしたが、玲斗を親族に紹介することが目的だった千舟は、意にも介しません。

そんな時、佐治優美の姿が玲斗の視界に入ってきました。

祈念をきっかけに柳澤グループとつながりたいと考えた寿明のお供で優美はパーティに来たのだとか。

よく見れば『たくみや本舗』の大場荘貴と福田守男の姿もありました。

佐治喜久夫のいた『らいむ園』へ

パーティの後、玲斗は最近の寿明の様子を優美から聞かされます。

寿明は相変わらず不審な行動を続けており、最近ではイヤホンを付けてしょっちゅう音楽を聞いているとのこと。

その上、プライバシーの侵害だからという理由で、優美にはその音楽を聞かせてくれないと言います。

玲斗の方はと言えば、祈念のパターンを分析した結果、喜久夫と寿明の祈念には深い関係があると考えていました。

父親と女性の関係性を重視している優美は、喜久夫の件にはあまり興味を示しません。

しかし、玲斗が一人で喜久夫が入所していた『らいむ園』に行きたいと言うと、自分の家の問題だから一緒に行くと、優美は気持ちを切り替えるのでした。

佐治喜久夫が『らいむ園』にいた理由

玲斗と優美は、『らいむ園』で喜久夫を担当していた楢崎という女性から話を聞きます。

10年前、喜久夫は50歳の時、重度のアルコール依存症で『らいむ園』に入所。

アルコールのせいで、糖尿病や肝硬変、聴力異常や精神障害も抱えており、ボロボロの状態でした。

楢崎によれば、アルコール依存症は不治の病であり、1滴でも飲めば元に戻ってしまうんだとか。

『らいむ園』には喜久夫を見張る役割もありましたが、喜久夫はとても穏やかな暮らしをしていました。

また、面会は月に1,2度母親が来ていたくらいで、亡くなるまでは一度も寿明が来たことはなかったと楢崎は言います。

しかし、楢崎は一度だけ喜久夫から「母のほかに家族はいるが、会う資格がない」と聞いていました。

『らいむ園』の訪問により、どうやら喜久夫が原因で寿明との仲が悪かったらしいということと、喜久夫に祈念を紹介した向坂春夫という人物も『らいむ園』の入居者であったということがわかりました。

『ホテル柳澤』へ

千舟の指示により、柳澤の原点だと言う『ホテル柳澤』へ玲斗は行くことになります。

千舟と『ホテル柳澤』支配人桑原義彦のやり取りから、どうやら2人はホテルの閉鎖を覚悟しているようでした。

しかし、『ホテル柳澤』は閉鎖しなくてはならないようには見えないほど、賑わっています。

将和たちは『ホテル柳澤』を潰し、箱根に新たな大型リゾート施設を建設する計画を立てているのですが、玲斗は盛況な『ホテル柳澤』はそのままにして、別にリゾート施設を作れば良いのでは?と意見を言います。

しかし、千舟が目指しているホテルのあり方と、将和たちが計画しているリゾート施設のコンセプトには違いがあり、色濃く残った千舟の色ともいえるものを一新したいというのが、将和たちの考えでした。

『ホテル柳澤』で1泊する価格は、玲斗の部屋が4万円、千舟の部屋が10万円。

文章を読んだだけでも、おもてなしの心が伝わってきます。

お客さんもコンスタントに来ているというのに、過去(=千舟)の色を消したいという理由で潰そうとする将和に対し「ひどい」とか「横暴」だとか感じるかもしれません。

でも、支配人の桑原はホテルを守りたいと思いながらも、将和の考えを理解し肯定もしています。

現実世界で閉店した店を見ると「潰れちゃった=採算がとれなかった」と考えがちですが「あえて潰す」ということもあるんですね。

津島秀次の祈念とわかったこと

ホテルで一泊した朝、玲斗は千舟から、夜の祈念にやってくる津島秀次について注意する点があると言われます。

足の悪い津島秀次には、付き添いが必要だが、血のつながりのある人の介助は認められないと言うのです。

また、土曜日の飯倉幸吉の祈念は、千舟が対応するので、玲斗には行って欲しい場所があるとのことでした。

夜になり、飯倉幸吉は夫人と一緒に祈念にやってきました。

  • 飯倉幸吉は父親の死後、満月の夜に何回も祈念に通ったことがあり、新月の祈念は初めてである
  • 飯倉幸吉には、息子と娘がおり、死んだ後には2人とも祈念に来て欲しいと思っている
  • 死ぬまで2人に祈念のことは話してはならない
  • 千舟は飯倉夫妻にも祈念のことを玲斗に話さないよう口止めしている

ということがわかりました。

『ヤナッツホテル渋谷』~優美との情報交換

クスノキの番人 ヤナッツホテル イメージ

土曜日、千舟から指示されたのは「ヤナッツホテル渋谷に泊まること」のみで、滞在中の行動は自由と言われます。

『ホテル柳澤』とは全く違い、合理性を重視しながらも、快適さが損なわれない仕組みや造りを導入した『ヤナッツホテル渋谷』から、玲斗は千舟が理念の違いを教えようとしたのではないかと思いつくのでした。

自由な時間、玲斗は優美を誘い、作戦会議をすることに。

優美は、介護施設にいる祖母の持っていたアルバムから、喜久夫がピアノを本格的に習っていたとわかる写真を見つけてきました。

玲斗は、祈念とはクスノキを媒体として血縁者にメッセージを遺せるシステム=『遺言』だと、優美に伝えます。

しかし優美からの

  • なぜ遺言をふつうに紙に書かず、クスノキを媒体として遺す必要があるのか?
  • 寿明のように、メッセージを受け取るのに何度もクスノキに通わなければならない理由は?

という質問に、玲斗は答えることが出来ませんでした。

大場荘貴と『たくみや本舗』の後継者問題

ある日、玲斗が境内の掃除をしていると、昼間だと言うのにクスノキから大場荘貴が出てきます。

荘貴は祈念がうまく出来なかった場合の対処法を玲斗に聞きにきたのです。

もちろん玲斗はその答えを知りませんが、荘貴との会話から、祈念には受け取り手を指定できる特別ルールがあるとわかりました。

荘貴は玲斗に『たくみや本舗』の事情を語ります。

前『たくみや本舗』の社長であった大場藤一郎が30歳も年下の家政婦を見初めて再婚、60歳近くで授かった子どもが荘貴だとのこと。

病死した前妻には子どもがいなかったため、荘貴だけが跡継ぎということに。

しかし、藤一郎が体調不良で社長職を離れた10年前、荘貴はまだ12歳だったため、藤一郎の甥川原基次が社長になりました。

荘貴の大学卒業がせまり、『たくみや本舗』の次期社長は誰が継ぐのか?が問題になってきます。

元社長である川原基次には、銀行員としてのキャリアも持つ30歳の息子川原龍人がいました。

そんな中、後継者を指定しないまま、大場藤一郎がこの世を去ってしまったのです。

荘貴本人は、優秀な川原龍人が継ぐのが妥当だと考えていますが、『たくみや本舗』では役員の意見が割れ、荘貴が継ぐべきだと考える者もでてきました。

しかも、藤一郎の遺言に「クスノキの祈念は荘貴がするように」と書かれていたため、事態は複雑化します。

藤一郎の祈念を受け取れなかった荘貴は、いつまで続ければ良いのかをはっきりさせたくて、番人である玲斗のもとを訪れたのでした。

優美の盗聴が寿明にバレてしまい

満月がやってきて、いよいよ優美は寿明の祈念を盗聴しはじめます。

すると鼻歌の他に、ピアノの演奏が聞こえてきました。

しばらくして何も聞こえなくなりましたが、祈念の終了時刻まで時間があったので、玲斗と優美はそのまま盗聴を続けます。

ところが、寿明は祈念を早めに切り上げており、盗聴していたところを見つかってしまいました。

怒る寿明に、優美は浮気の件で反撃します。

玲斗は正直に、2人で喜久夫のことも調べていたと告白し、全てを話して欲しいと頼みます。

すると観念したように寿明は喜久夫のことを話し出すのでした。

佐治喜久夫の生い立ち

寿明の2歳上の兄だった喜久夫は学業優秀で跡継ぎとして期待されていましたが、母貴子ピアノを習わせたことをきっかけに、神童と呼ばれるまでの才能を発揮しはじめます。

ピアニストに憧れた過去がある貴子は、喜久夫が音楽の道に進むことに夢中になっていきました。

最初は貴子の好きにさせていた父弘幸でしたが、音楽で食べて行かれるわけがないと、難色を示し始めます。

しかし、喜久夫の才能はとどまるところを知らず、ますます貴子はのめり込んでいきました。

貴子は、寿明に対しては家業を継ぐために大学の建築工学科に入学することを要求します。

やがて音楽大学に入った喜久夫は、ピアノではなく作曲科に進んだだけでなく、めったに家に寄りつかなくなりました。

あまりにも喜久夫からの連絡がないことを心配した貴子は、学生寮を見に行きます。

そこに喜久夫はおらず、寮長が言うには、喜久夫はとっくに大学を辞めているとのこと。

喜久夫はアルバイトで生計を立てながら、役者の卵になっていました。

貴子が喜久夫を甘やかしたからだと弘幸はなじり、喜久夫には二度と家の敷居をまたがせないと激昂します。

以来、喜久夫が家に帰ってくることはありませんでしたが、貴子は居場所を知っているようでした。

ある日の事、寿明は弘幸から貴子の後を尾行することを頼まれ、実行します。

するとそこには、広場で大道芸人をしている喜久夫の姿がありました。

それ以降、佐治家で喜久夫について話題になることもなくなり、寿明自身も結婚し、正式に『佐治工務店』を継いだことで、兄についての興味を失っていきます。

そんな状況が続く中、弘幸が心筋梗塞で突然亡くなってしまいました。

喜久夫に弘幸の死を知らせて欲しいと寿明は貴子に頼みますが、なぜか貴子は「無駄だと思う」とだけ言って拒否をし続けます。

結局、喜久夫が父親の葬儀にやってくることはありませんでした。

佐治喜久夫の死

葬儀の後、貴子は喜久夫について語り始めます。

希望通り音楽大学に進んだ喜久夫でしたが、自分以上に才能や実力のある者を目の当たりにし、自信を失ってしまいました。

大学を辞め、演劇の世界に居場所を見つけようとした喜久夫は、またもや才能の乏しさを実感します。

しかし、喜久夫は苦しみながらも様々なことに挑戦し続けていました。

自分のせいで喜久夫の人生が歪んでしまったのではないかと考えた貴子は、ただただ応援をし続けます。

ところが、喜久夫は30歳を過ぎた頃から、お酒に溺れ始めます。

喜久夫が重度のアルコール依存症だとわかったのは、意識を失い病院へ運ばれるほど悪化してしまってからでした。

長い間、貴子は喜久夫がアルコールを飲まず、立ち直らせようと見守り続けます。

しかし、不治の病であるアルコール依存症が完治することはなく、喜久夫は生涯面倒を見てくれる施設『らいむ園』に入ることとなりました。

『らいむ園』に入ったことで、喜久夫の精神状態は落ち着き、貴子は寿明に会いに行って欲しいと言います。

自分と会う事で喜久夫の精神状態が悪くなることを恐れた寿明が、会う事を保留しているうちに、喜久夫は肝硬変で亡くなってしまいました。

貴子の認知症と喜久夫の手紙

『らいむ園』の近くで、貴子と二人だけで喜久夫の葬儀を終えた寿明は「これで貴子も解放される」と思います。

けれど、喜久夫の死後ほどなくして、貴子は認知症を発症してしまいました。

介護生活を続けていた喜久夫でしたが、これ以上家族に苦労をかけたくないと、いよいよ貴子を介護施設に入れることに。

施設に入った貴子の部屋を片付けていると、開封されていない喜久夫から貴子宛の手紙が出てきてしまいます。

ためらいながらも手紙を開封すると、そこには

月郷神社のクスノキに預けました。どうか受け取りに行ってください。
クスノキの番人P302

とだけ書かれた便箋が入っていました。

月郷神社のクスノキを確かめに

インターネットで検索をした寿明は、月郷神社のクスノキに「願いが叶う」という言い伝えがあることを知ります。

しかし、そんな言い伝えを簡単に信じることはできず、喜久夫は頭がおかしくなっていたんだと思うことにしました。

が、どうにも割り切ることができなかった寿明は、月郷神社を訪れてみることにします。

月郷神社で管理人らしき老人に出会った寿明は、手紙の事をダメもとで相談してみます。

すると思いがけず老人は「誰かがお兄さんの念を受け取らないと」と言い、寿明に柳澤千舟の連絡先を教えました。

千舟に会った寿明は

  • 喜久夫がクスノキに預けたのは、言葉だけでは伝えられない念=思い
  • 思いを預けることを預念と言い、新月の夜に行う
  • 血縁者のみ満月近くに発せられる念をクスノキから受け取ることができる=受念

と説明を受けます。

やり方はクスノキの中に入り、相手の事を想うだけだが、どのように受け取るかを言葉では表現できないとのこと。

千舟から話を聞いた寿明は、貴子の代わりに喜久夫の念を受け取ることを希望します。

すると千舟は、血縁者であることを証明するために、戸籍謄本を郵送するようにと言い、寿明の申し出を受けたのでした。

喜久夫の念を受け取った寿明

1週間後、受念の日がやってきました。

火をつけると樟脳の香りがする蝋燭を渡された寿明は、千舟から説明されたように、その香りを嗅ぎながら、喜久夫のことを考えます。

すると突然、喜久夫の思いが次々と寿明の中に流れ込んできます。

特に貴子に詫びる気持ちと感謝の念が強く、気がつけば寿明の頭の中には、今まで聞いたこともない曲がピアノにより奏でられていました。

念を受け取った寿明は、その曲こそが兄から母への贈り物だと確信します。

受念が何度も出来ると聞いた寿明は、喜久夫の遺した曲を何とかして形にしようと満月のたびにクスノキを訪れるようになったのでした。

寿明の会っていた女性の正体

寿明に音楽の才はなかったため、悩んだ末、旧友の音楽教師葉山に連絡をとります。

寿明から話を聞いた葉山は、聞いた曲を一度で耳コピーできるピアノ講師岡崎実奈子を紹介してくれました。

寿明は頭の中に流れる曲を鼻歌で聞いてもらい、自分以外の人にも聞かせられる曲にしてもらおうと、クスノキで受念をしては岡崎実奈子の元に通っていたのです。

岡崎実奈子のアドバイスから、寿明はクスノキにボイスレコーダーを持ち込み、受念をしながら鼻歌を歌うことを試します。

しかし、曲はまだ完璧に再現できてないとのこと。

佐治寿明から話を聞いた玲斗は、クスノキの番人がいかに重大な役割を担っているか理解を深め、そんな仕事を与えてくれた千舟に深く感謝するのでした。

千舟の話

クスノキの番人の心得』を渡すため、千舟が月郷神社へやってくると、玲斗は神社の鈴を磨いていました。

その光景と、寿明からの報告を聞いていた千舟は、玲斗がクスノキの番人として、祈念について理解を深めていると確信します。

千舟によれば、クスノキの力は遺言だけでは伝えきれない理念などの思いを正確に伝えるといったことに使われることが多いものの、かつては負の念を伝える手段に使われることも多かったとのこと。

憎い相手への仇討を命令するといったことにも使えるのだと言います。

心得を受け取った玲斗は、千舟に受念が受け取れないケースについてたずねます。

  • 受念を受け取れるのは、ぎりぎり4親等まで
  • 血が濃くても、預念者との関係が希薄だと受念できないことがある
  • 受念の回数は本人しだいで、番人が口出しすることではない

とのことで、大場荘貴が受念を続けるかの目安はないということがわかりました。

千舟は玲斗がクスノキの力を信じていない間は、言葉では正しく伝わることはないだろうと考え、最初は一切の説明をしなかったんですね。

言葉はコミュニケーションをとる最強のツールではありますが、正しく伝わっていないことも多く、誤解を生んで人間関係を壊すこともあります。

ただ、預念をする側はそれなりの覚悟が必要ですよね。

クスノキはコンピューターのようなものですから、善悪を判断することはなく、まるまる念を伝えてしまいます。

伝えたい念があっても、負の感情をも、子どもや孫に知られてしまうと思うと、私だったら簡単にクスノキに頼れないな…と感じてしまいました。

大場荘貴が受念できない理由

福田に伴われ、再び大場荘貴が祈念にやってきました。

玲斗は、受念を続ける回数は本人しだいであると伝えた後、荘貴と父親である藤一郎の関係が希薄だったのかを確認します。

以外にも荘貴はとてもかわいがられて育っており、思い出もたくさんあると言います。

大場荘貴が受念できないのは、関係が希薄だったからではなく、藤一郎の本当の子どもではなかったからだったのです。

また、荘貴は中学2年生の時に、藤一郎本人から出生に関する話を聞いていました。

大場荘貴の出生の秘密と深まる謎

家政婦だった荘貴の母親に熱烈な恋をした藤一郎は、子どもを授かった際、藤一郎は本当に喜び、すぐに結婚を申し出たとのこと。

もともと彼女には家庭を持つ恋人がいたため、どちらの子どもかわからなかった彼女は、産むことも結婚も一度は断りました。

ところが、藤一郎は自分の子どもである可能性もあるし、仮に違ったとしても、自分の子どもとして育てることを決意します。

母親はひどく悩みますが、最後には藤一郎の申し出を受け、荘貴を産みました。

DNA鑑定などはしなかったものの、藤一郎も荘貴も、おそらく血の繋がりはないだろうとわかっていました。

ところが、いざ藤一郎が亡くなってみると、クスノキの祈念者は荘貴だけに指定されていたのです。

藤一郎はなぜ荘貴が受念できないであろうと知っていて、祈念を行ったのか?

荘貴はもちろんのこと、玲斗にも答えは思いつきませんでした。

岡崎実奈子の提案

寿明から真実を聞いた優美は、喜久夫の念を受け取れないか試してみます。

喜久夫との血が薄く、思い出もない優美では、やはり受念は失敗に終わりました。

そこで曲の再現に協力している岡崎実奈子は、寿明が満月の夜に預念をしてから、優美が受念することを提案します。

優美はその提案に大賛成をしますが、寿明はためらってしまいます。

クスノキの本当の力を知っている寿明は、娘に頭の中を全てさらけ出すことについて怖さを感じていたのです。

そのことを知った優美は、寿明に

過去に何をしていても、一切とがめることはしないけれど、もしも今の時点で家族を裏切っているのであれば預念をしなくて良い

と伝えます。

つまり、もしも寿明が預念をしなければ、家族を裏切っているということになってしまいます。

家族なんだから全てを受け止めると言った優美の言葉に、寿明はクスノキに念を預ける決意をするのでした。

千舟から相続するもの

ある日、玲斗ははじめて柳澤家を訪れることになります。

千舟の死後、柳澤グループの所有する土地に建った屋敷と中にあるものは全て、唯一の相続人である玲斗が引き継ぐことになるとのこと。

しかし、決して処分してはいけないものがあると言われます。

それは、クスノキの番人を引き継いだ者だけが知る秘密の扉を開ける方法と、保管された150年にも渡る祈念の記録でした。

また祈念に必要な蝋燭の製法も、近いうちに玲斗に伝授をしたら、千舟はしばらく旅に出ると言い、留守番をするために屋敷の鍵も渡されました。

柳澤家の秘密の扉は、水墨画の裏に隠されており、鍵も忍者屋敷に仕掛けられたようなものになっています。

いずれ『クスノキの番人』は映像化されることになると思いますが、ドラマではなく、しっかり作り込まれた映画でこのシーンは観てみたいです。

それにしても、一子相伝であるクスノキの番人の秘密…万が一、番人が急逝した場合の保険がないので、玲斗に何かあると150年もの歴史が知られずに消えていく可能性もあるわけです。

クスノキの番人が背負うものを考えると、玲斗は今までのような生き方はできませんね。

寿明から優美への祈念が成功し

優美は、寿明の預けた念を無事に受け取ることに成功します。

喜久夫の曲も聴くことができた優美は、ひどく感激した様子でした。

曲だけでなく寿明自身の思いも受け取った優美でしたが、父親が善良なだけではないとわかったものの、それは当然だし、むしろ勇気があると尊敬を示します。

堂々と祈念をすれば、人生に偽りや後ろめたいことは何もないと示したことになる

優美の言葉は、玲斗に新たな視点を与えてくれました。

玲斗から大場荘貴への入れ知恵

優美の言葉からヒントを得た玲斗は、大場荘貴に藤一郎の念を受け取ったことにすれば良いと知恵を授けます。

そんな嘘はすぐバレると呆れる荘貴でしたが、藤一郎の想いは生前に荘貴に伝えられているはずで、受念などできなくても荘貴ならわかるはずだと言うのが、玲斗の言い分でした。

藤一郎が受念できない荘貴を、あえて指定したのは、荘貴なら念が伝わらずとも意思を継いでくれると信じていたからだと、玲斗は語ります。

玲斗の言葉を聞いた荘貴は、藤一郎から教わってきたことを思い出すため、クスノキの中へと向かっていくのでした。

福田守男の告白

翌日、月郷神社に現れた福田守男は、急に荘貴が受念したと嘘をつき出したのは、玲斗の入れ知恵かと聞いてきます。

とぼける玲斗でしたが、実は福田守男は荘貴が受念できるわけがないと最初から知っていたというのです。

長年、藤一郎と付き合いがあった福田は、藤一郎本人から色々なことを打ち明けられていましたが、後見役を任されたため、表向きは何も知らないふりをして荘貴をクスノキに連れて来ていたとのこと。

福田は藤一郎から、組織のリーダーとして荘貴を甘えのない人間にするため、福田が出生の秘密を知っていることは荘貴には知られないようにと頼まれていたため、ずっと言えずにいたのです。

確かに、秘密を分かち合った人間には甘えてしまうってことありますよね。

辛くて苦しい時、友だちに聞いてもらうって、そういう事だと思います。

でも、組織のリーダーともなると、相手が信頼できる人物であっても、甘えてはいけないことはたくさんあります。

重要な判断などは、責任をもって自分で決めなくてはなりません。

そこまで見越していた藤一郎は、そこらの血のつながった父親より、本物の父親かもしれませんね。

大場荘貴の出した答え

  • 現社長 川原基次の息子である龍人を後継者の第一候補とする
  • 荘貴は見習いから全ての職場を経験する
  • 荘貴の働きを見て、役員たちと協議し、後継者候補にするかを決断する

以上が、荘貴の語った『たくみや本舗』後継者に関する藤一郎の念でした。

それを聞いた福田は、見事に志が受け継がれており、何も心配ないと思ったと言います。

こうして藤一郎の願いは叶えられ、荘貴の祈念は終わりを迎えたのでした。

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『クスノキの番人』ラスト結末ネタバレ|千舟の秘密が明らかに!

大場荘貴の件が片付いた後、佐治喜久夫の曲も無事に完成します。

曲は、佐治貴子の入っている介護施設で演奏会をして披露することになり、寿明のたっての希望により、千舟と一緒に玲斗は聴きに行くことになりました。

佐治喜久夫の想いが届いたのか、認知症でほとんど反応を見せない貴子が曲を聞いたことで「喜久夫のピアノだ」と言いながら涙を流します。

演奏会の後、玲斗は優美から「またクスノキを見に行ってもいい?」と聞かれ、今はこれで満足しようと思うのでした。

千舟が隠していた驚きの秘密

玲斗はクスノキの番人を続ける中で、千舟が飯倉孝吉の名を使い、祈念をしていたことに気がつきました。

そして、誰にも秘密にしたまま玲斗は千舟の念をクスノキから受け取ってしまいます。

受念により、千舟の想いと秘密を知った玲斗は、『ホテル柳澤』の閉館と、千舟の退任を決定する役員会に同席することを計画。

何も言わずにすべてを受け入れようと思っていた千舟が止めるのも聞かず、千舟の代理だとして発言を始めました。

柳澤将和の許可を得て、玲斗の発言は最後まで聞いてもらえたものの「これで満足かな?」と素っ気なく言われてしまいました。

玲斗がそんなことをした理由は、受念により千舟が認知症だと知ってしまったからだったのです。

退任を希望したのも千舟自身でしたが、千舟が言いたいことを言えずにいると知り、玲斗はどうしても千舟の想いを将和たちに伝えたかったのでした。

千舟が玲斗を後継者にした理由

自分が認知症だと知った千舟は、早急にクスノキの番人を誰に継がせるか決める必要に迫られました。

将和の子どもたちでは5親等以上になってしまいます。

そんな時、富美から玲斗が逮捕されたと連絡がきたのです。

玲斗に失望しながらも、クスノキの番人を継がせようと思ったのは、玲斗の母美千恵への償いの気持ちからでした。

千舟は、宗一の結婚を祝福せず、美千恵と姉妹の絆を結ぶこともなく、見捨ててしまったことについて、ずっと苦悩していたのです。

玲斗を救うことは、死んでしまった妹への罪滅ぼしができ、後継者問題も解決するチャンスとも言えました。

千舟は、将和に認知症の事は伝えてあり、その能力なども認めていました。

クスノキの番人として玲斗の成長を確信した千舟は、ただ旅行に出ようとしていたのではなく、死に場所を求めて、玲斗のもとを去ろうと考えていたのでした。

『クスノキの番人』感想まとめ|読書感想文の参考になれば

今回、記事を書くにあたって『クスノキの番人』をトータル3回読みました。

読むたびに、自分の生き方を考えさせられ、気付きをもたらしてくれる作品でした。

一見、全く隙のない千舟にも、人生において大きな後悔があったり、自分をごまかしながら生きてきた過去があったりします。

ましてや、あれほどまでに強く玲斗に「この世に生まれるべきでなかった人間などいません」と言ったのに、自ら死を選ぼうとした千舟は、本当は全然強くないし、むしろ脆い人だと感じました。

対して「もともと何も持ってない」と、生きることにあまり積極的ではない玲斗は、自分が思っているほど無能ではないし、ポテンシャルは高く、案外打たれ強いです。

大場荘貴もそうですが、ダメダメに見える人の方が、花開くと大輪だったりすることが多々あります。

また、誰からも才能があると思われていた佐治喜久夫などは、平凡な人生を送っている弟を妬み、羨ましいとさえ思っていました。

では、人の幸せとは何なのか?

与えられた才能や能力だけでは、絶対に決まらないということは確かです。

人は生きていると必ず壁にぶち当たることがあります。

でも、例えば玲斗は逮捕されたことが運気を好転させることにつながりました。

ここで間違えてはいけないのは、投げやりに生きることを正当化しろという話ではありません。

玲斗の運気が本当に好転し始めたのは、クスノキの番人とは何なのか?を自分で考え、千舟に感謝したところがスタート地点だというところが、見逃せないポイントだと思うのです。

幸せと思うか、不幸だと思うかは、自分で決めるもの。

また、自分を幸福だと思っている人と付き合うと、幸福度は高まっていきます。

誰でも、嫌なことや都合の悪いことが起きれば落ち込む時があります。

でも、その時にお互いを励まし合える人間関係があれば、きっとその人はまた幸福の道を歩けるはず。

その事を『クスノキの番人』は教えてくれた気がしました。

『クスノキの番人』と検索すると「つまらない」と感じている人がいます。

面白い、つまらないよりも、人生の役に立ったか?という目線で見てみると『クスノキの番人』の印象が変わるかもしれません。

ぜひ、東野圭吾さんの紡ぎ出す言葉で『クスノキの番人』を読んでみて欲しいと思います。

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