東野圭吾さん原作の『クスノキの番人』は、ミステリー要素を含みながらも、名言(=本質をうまくとらえた言葉)があふれた作品です。
読書感想文用の本としても活用されることがある名作ですが、451ページという長編なので、完読したものの感想文の書き方に迷う可能性も高いと思います。
そこで、この記事では、個人的に名言だと思った文章を7つにしぼってピックアップ。
私なりの感想などをプラスして紹介しています。
『クスノキの番人』の何ページに書かれているかもわかりますよ。
結末までのネタバレを知りたい方はこちらへどうぞ↓
『クスノキの番人』登場人物&相関図
- 直井玲斗 クスノキの番人。複雑な家庭環境に育つ。
- 柳澤千舟 玲斗の伯母。ヤナッツコーポレーション顧問。
- 柳澤宗一(旧姓直井)千舟の父親。
- 直井美千恵 玲斗の母親で、千舟とは異母姉妹。
- 直井富美 玲斗の祖母。78歳。
- 佐治寿明 クスノキに祈念に通っている
- 佐治優美 佐治寿明の娘。父親の浮気を疑っている。
- 佐治喜久夫 寿明の兄。らいむ園に入所していた。
- 柳澤将和 ヤナッツコーポレーション代表取締役社長。千舟のハトコ。
- 柳澤勝重 ヤナッツコーポレーション専務。千舟のハトコ。
- 岩本義則 玲斗の前に現れた弁護士。
- 大場荘貴 大手和菓子メーカー『たくみや本舗』の跡継ぎ候補。
- 福田守男 『たくみや本舗』の常務取締役。
- 大場藤一郎 荘貴の父親。
- 飯倉孝吉 去年クスノキで祈念をした老人。
- 桑原義彦 『ホテル柳澤』支配人。
- 津島秀次 代々柳澤家と付き合いのある家系。足が不自由。
- 岡崎実奈子 ピアノ講師。
東野圭吾原作『クスノキの番人』名言
名言1
どこの世界に、自分がつまみ食いした料理を出すレストランがある?おまえが裏切った相手はお客様なんだ。
『クスノキの番人』67ページ
玲斗が黒服をしていた頃、ホステスに口説かれ、関係を持ってしまったことがバレた時、友人であり同じく黒服をしている佐々木が言った名言。
連帯責任として坊主になった佐々木に、玲斗は謝ります。
しかし佐々木は「おまえが詫びる相手は俺じゃない」と、玲斗が水商売を甘く見ていたことを指摘しました。
昼の世界にいると、どうしても水商売を卑下してしまいがちです。
しかし、「ホスト界の帝王」と称されるローランドさんの生き方などをドキュメンタリーで見てみると、いかに厳しく、生半可な気持ちでは勤まらない世界かわかります。
どんな仕事でも、中に入ってみないとわからない辛さや厳しさがあるということがわかる名言でした。
名言2
人間の人生なんて奇麗なことばかりじゃないだろう?
特に人と人との関わりってのは厄介だ。
ある人間が原因で自分や自分の家族が苦しめられているとしたら、その者にこの世から消えて欲しいと思うのは、ある意味当然のことじゃないかね。
『クスノキの番人』113ページ
玲斗が、かつてクスノキで祈念をしたことがある老人、飯倉孝吉にクスノキに誰かが死ぬことを願うことはあるのかとたずねた際の答え。
この時まだ、玲斗はクスノキの番人の役目も、クスノキの本当の力もよくわかっておらず、手探り状態でした。
人は、生まれてから死ぬまで、全く負の感情にとらわれず生きることはできません。
私も若かりし頃は、嫌な思いをさせてくる相手がいなくなってくれれば、この悩みは解決するのに…などと安易な考えに陥ったことがあります。
玲斗の質問に対する飯倉の答えは、長く生きる中で、自分の内面にある負の感情を見つめてきた人だからこそ言える偽りのない回答であり、誠実な受け答えだと感じ、名言としました。
名言3
それを防ぐには法律という武器が必要。だから私がその武器を手に入れようとしているの。
『クスノキの番人』130ページ
千舟が法律の道へ進もうと決めた時、祖父彦次郎に言った名言。
若い頃「どう役に立つかもわからない勉強を、なぜしなくてはならないのだろう?」とずっと思っていました。
そして、大人はその疑問に対する明確な答えを、基本的には持っていなかったような気がします。
それが学歴社会でした。
が、自分が大人になった時、私自身も千舟と同じ答えに自然とたどり着きました。
法律だけでなく、知識は武器です。
身に着けた知識を例えすぐに使う事がなかったとしても、意外なところで自分を守ってくれたり、役に立ったりしてくれることがあります。
今の時代、学歴だけで生き抜くことは難しいし、学校へ行くことや受験勉強にも意味を見出せないかもしれません。
でも、明確に目指す何かがないのであれば、勉強をしておくことは決して損にはならないと思うようになりました。
ゲームでも使わないと思っていた魔法が、わけのわからない攻撃をしてくる魔物にだけ効いたりすることがあります。
人生もそれに似たようなことがあったりします。
名言4
人は虚勢を張る人間より、張らない人間のほうを恐れますからね。
『クスノキの番人』152ページ
柳澤家のパーティーに参加する際、緊張している玲斗に千舟が言った名言。
虚勢という言葉を調べると「外見だけは力のあるふりをする。 自分の弱い所を隠すために、逆に強がった様子でふるまう」と書かれています。
さらに、虚勢を張る人の心理には
- 自分に自信がない
- 自分が大好きである
- コンプレックスを隠したい
- 相手より優位な立場でいたい
こういった特徴があるんだそう。
真に力があり、自信をもっている人間は虚勢など張る必要がありません。
ですから千舟が言うように恐れるべきは虚勢を張らない人間なのは確かです。
が、そこまで自信を持っている人は、そんなには多くはないので(もちろん私も)、無自覚に虚勢を張ってしまっていることがありそうです。
千舟が玲斗に言う言葉は、説教臭い部分もありますが、素直に受け取ると「確かになぁ」と思うものばかりだったりします。
名言5
何とかして正面の壁に穴を開け、真ん中に道を切り拓けないか、それを考えるんだ。
『クスノキの番人』165ページ
ヤナッツコーポレーションの現社長である柳澤将和が、パーティの席で玲斗に言った名言。
生きている中で、壁に当たった時、どのような道を進むか?
という問答の中で、玲斗は「経験を頼りに考えて決める」と答えました。
しかし、玲斗はその答えを返す前、これからどう生きていくか?との問いに対し
「将来のことなど考えていない」
と言ってしまっています。
将和は、根無し草のような生き方から、どんな経験を蓄積できるのか?
と指摘した上で、自分ならどうするかという答えを示したのです。
玲斗は学のなさを生い立ちのせいにした結果、千舟に
「そういうのを開き直りと言います。言い訳とも」
と一蹴されたこともあります。
パーティに参加する前、千舟から「虚勢を張ってはいけない」と言われていたのに、またもや生い立ちを持ち出し、ある意味、虚勢を張ってしまいました。
将和の迫力に完敗した玲斗は凹みますが、千舟からは
「あんなのはジャブ程度です。しっかりしなさい」
と言われてしまいました。
将和にとって玲斗は、反抗期の坊主みたいなもんだったようです。
自分だったら将和の質問にどう答えるか?を考えさせられる名言でした。
(ちなみにですが、私だったら信頼のできる人たちに相談しながら、進むべき道を決めると思います)
名言6
この世に生まれるべきでなかった人間などいません。どこにもいません。生まれてきた理由があります。そのことだけは覚えておきなさい。
『クスノキの番人』390ページ
玲斗に相続させるものの説明を受けた後、千舟は将来についての考え方は変わっていないのか?とたずねます。
千舟の質問に答える際、玲斗は「(自分は)不倫の末に出来た子どもなので、本来なら生まれるべきじゃなかった人間だ」と言ってしまいます。
それを聞いた千舟は、激しい感情を見せながら、さきほどの言葉を発しました。
千舟の言葉に反論できなかった玲斗でしたが、やっぱり「自分が生まれてきたのは母親が馬鹿だったから」としか思うことができませんでした。
生まれてきた理由…この問いにはっきり答えられる人は、あまりいないかもしれません。
でも、多くの場合、人は少なくとも母親には望まれて生まれてきています。
それこそが生まれてきた理由なのではないでしょうか?
私は出産経験が2度ありますが、めちゃくちゃ痛いし苦しいので、望んでもいないのに子どもを産むなんて無理です。
人は必ず役目を背負って生まれてくるなどと思ってしまうと、その役目が何なのか?と考えた時に、人は生きている意味に迷ってしまいます。
大抵の場合、さほど大きな役目を自分が背負って生きているとは思えないからです。
私も「死にたいとは思わないけど、長く生きていたいとも思わない」などと口にしてしまうことがあります。
息子たちからも「別に明日死んでもかまわない」と聞くことがあり、悲しい気持ちになりつつも、どこかで共感してしまう自分がいます。
ただ一つ言えるのは、私は自分が生きている限りは、息子たちにも生きていて欲しいのです。
その望みが、彼らの生きる理由になればいいと思うからこそ、私自身も親が生きているうちは、頑張って生きなくてはと思いなおすようにしています。
玲斗に考える機会を与えたという意味で、千舟の言葉は価値ある名言だと感じました。
名言7
忘れたという自覚さえないのなら、そこは絶望の世界なんかじゃない。ある意味、新しい世界です。
『クスノキの番人』450ページ
認知症をわずらっている千舟は、会社の事は将和に、クスノキの番人は玲斗にまかせ、自分の役割は終わったと、自ら命を絶つ決意します。
上の言葉は、受念により千舟の隠していた真実を知った玲斗が、千舟に言った言葉になります。
私を含め、子どもを持つ友人もみな「認知症になり、子どもに迷惑をかけるのが怖いから、長生きしたくない」と思っています。
でも、寿命も認知症になるかどうかも、基本的には自分で決められません。
玲斗のような言葉を本気で言ってくれることを子どもたちに望むのは酷だし、わがままかもしれません。
けれど、千舟は玲斗と出会い幸せだなと思いました。
とは言え、人は誰と出会い、誰と付き合うかにより、自分の生き方も変わるものです。
玲斗が千舟に対し、こんな言葉をかけられるようになったのは、千舟自身がクスノキに祈念するに相応しい生き方をしてきたから。
過去は変えられませんが、今からでも「もしもクスノキが本当にあったら」と思い、堂々と祈念できるような生き方を選ばなければいけないなと思えた名言でした。
以上、『クスノキの番人』名言7選でした。
※読書感想文の参考にするのはOKですが、記事文をコピーしてネットにあげていた場合、対処をさせていただきます